戌井 昭人『ただいま おかえりなさい』

　ただいま　おかえりなさい。このなんでもないタイトルがなんだかこのお話を見事に象徴している。ふつうならこれは会話なのだが、タイトルとなった時、これはまるで一人語りのように閉じているのがおもしろい。この作品にぴったりのタイトルだ。この小説とはもちろん言えないような小話の数々には、まるでオチがない。なのに、これらのお話は、この世界ではちゃんと成立する。納得のいく話になるのだ。

　これって、夢(夜に見るやつ）のようなオチのなさだ。読んでいて、なんだか心がざわざわする。そんな小さなお話がここにはなんと１１３編も並んでいるのだ。

　一度読んだとき、えっ、と思って、まるで頭に何もとまらないから、もう一度、読み直してみる。そこでようやく話を理解する。でも、その理解したという話って、全く意味のないもので、結局ワケがわからない。なのに、なんだかなーるほど、とわかった気になったりして、なんか気持ちがいい。よくわからないでしょ。

　まぁ、夢ってこんなものではないか。理屈とは全く違う世界に酔う。だから、頭の中できちんと整理したらつまらないものになったりする。イラストと空白だらけの文章がなぜかとても心地よく、ゆっくりゆっくりとこの余白の中に幻を見ながらページを繰っていく。