2020年の7月刊行された作品の文庫化出版された新刊。解説が井上荒野。もしかしたら刊行時に読んでいたかもと思いつつも、まあいいかぁと読み始める。
このブログのバックナンバーを検索したけど、書いてなかった。今は読んだ本はほぼ全て書いているけど、5年前くらいまでは忙しくて、かなりの確率で書いてなかった。劇場で見た映画や演劇はほぼ全て書いていたけど、本やDVD(当時は配信はなかったからね)で見た映画について、書く時間はなかったからだ。この本は2020年だから、書いていないってことは未読のはず。だけど、なんだか既視感はある。
たぶん以前読んでいる。だけどかなり忘れているから、先が読めない。だから最後まで読んでしまった。やはりこれはいい小説だ。彼女の小説は好き。今回もなんでもない日常のスケッチだ。だから読んでも忘れる。だけど、それはつまらないからではない。愛おしいくらいに心に沁みる。なのに忘れていく。人は大切なものを持っていても、持っていることを忘れながら生きている。そんなこともある、とこの小説を読み終えて思った。
真智子は24歳。まだ若いし、何者でもない。初めての恋は失恋に終わる。しかも自分から彼を振っている。親友とは喧嘩別れしてしまう。いづれも自分に正直に生きるためだ。その結果傷つく。だけど、ちゃんと成長する。砂漠ではなく、砂丘の上をゆっくり歩いていく。
親友と和解してふたりで砂丘を手を繋いで歩いていたが、ずっと手を繋いだままは難しいから手を離す。だけど、一緒にいる。そんな関係が大事なのだと気づく。ラストのもと恋人との再会もいい。お互いが子どもだったことに気づいている。だから再び一緒にいることができるかもしれないと思う。仲直りするかどうかはまだわからないけど、一歩踏み出す。
鳥取からひとり出てきた。自分の人生を見つける為に。大阪は東京より小さいけど、鳥取より大きい。鳥取の父から離れてここで生きる。そんな柔らかい覚悟が心地よい。僕もこの春からまた新しい一歩を踏み出す。リンちゃんの弟であるレンも一年生になり、新しい一歩を踏み出す。これはそんな旅立ちの春にふさわしい小説だった。