これはまさかの傑作。先日見た『DUNE 砂の惑星 PART2』と並べると両者の差は歴然とする。あの映画はビジュアルは圧倒的に凄いけどお話の展開が下手すぎた。ぜひこの映画を見習って欲しい。『DUNE 砂の惑星』2部作に足りないものがここにはちゃんとある。シンプルなストーリーで本質を射抜く。政治的な問題を寓話の中に落とし込み、それを隣接する対照的な2国間の争いに集約し、さらにはわかりやすい王子と王女(『ロミオとジュリエット』を踏まえている)のような恋物語も付与して描く。この作品はあの映画のダメな部分を見事に払拭する。
このアニメ映画は表面的には両国間の戦争を描きながら派手な戦闘シーンは皆無。だけど寓話的で見事なお話の展開で、たった2時間で長い歳月にわたる政治的トラブルを2人の男女が解決するというお話の中に収斂させていく。砂だらけだけど経済的には豊かな国と水には恵まれるけど貧しい国。強者は弱者を武力で支配しようとする。両国の間に作られた壁の存在。そこを越境してくる勇敢な王子と王女。
しかも王女はふっくらしたルックスで愛嬌はあるが、まるで美女ではない。だが、映画を見ているうちに彼女がとても魅力的で可愛く見えてくる。内面の美しさが外見に滲み出る。だからまるで美男美女の定番ラブストーリーのような納得がいく心地よさ。しかもそれが嫌味にはならない。見事なハッピーエンドも嫌味がない。
さらにはエンドクレジットまで楽しめるように作られてある。(ちゃんとその後のエピソードが描かれる)至れいり尽せりの117分である。こういう映画が昨年公開されていたけど、残念ながらあまりヒットしていない。なんだかもったいない話だ。
制作はマッドハウスが手掛ける。原作は岩本ナオ。監督は渡邉こと乃。脚本は坪田文。女性のトリオが放つ心温まる傑作映画。必見。