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映画・演劇のレビュー

Ugly duckling『ゲゲゲのげ』

2010-07-11 22:03:49 | 演劇
 2時間半の大作である。300の名作にアグリーが挑戦する。現代演劇レトロスペクティヴの第二期開幕だ。80年代を代表するさまざまな作品から、今回、池田さんが選んだのは渡辺えり子作品。これはアグリーのカラーにぴったりだ、と思ったのだが、実際のところはかなり難しい。

 今、この台本を上演することの意味が感じられない作品になったのが残念だ。この企画に於いては、台本をいじるわけにはいかないので、リメイクというふうにはならない。再演に止まる。この台本をアレンジしてアグリー風に作り変えたなら、かなり面白いものになったかもしれない。

 オリジナルはもっとアップテンポで上演されたのだろうが、池田さんはとても丁寧にシーンシーンを見せていこうとする。その結果、台本自体の弱さが露呈することとなった。もともと勢いで見せる芝居だから、そこに展開する世界の理屈を解き明かすことは不可能だ。渡辺さんの作ったイメージの世界をきちんとなぞって見せたところで、それでは感動的なものにはならない。今という時代に息吹が感じられないからだ。80年代にはこういう芝居が時代を担ってきた。だが、今は2010年だ。時代はもっと切迫している。

 こちらの世界とあちらの世界。芝居はこの2つの世界を行き来する。教室でいじめに遭っているマキオが、妖怪ポストに手紙を入れて鬼太郎の助けを待つところからドラマは始まる。テンポが悪くて、乗り切れない。こういうアングラテイストの作品は勢いが命だ。いきなりそこで躓く。だがそんなこと承知に上で池田さんは丁寧にこの芝居をなぞる。そこから見えてくるものがきっとある、と信じたからだ。その試みは半分成功する。

 とても魅力的なキャスティングとなった。アグリーとしてはこれだけ多彩な男優陣を大量に呼び寄せての公演は初めてのことであろう。既成の戯曲で男優がたくさん必要だったから仕方ない面もあるのだが、男たちを各所に配して彼らがドラマを担っていく、というスタイルの芝居に池田さんがチャレンジ出来たことの意義は大きい。

 主人公のマキオを演じた豊田真吾の限り無く情けない姿はこの芝居のハイライトだ。あの役を女性に演じさせたならつまらない。彼がずっといじめられ、いじけたまま2時間半の芝居を支え続ける。そんな彼を樋口ミユの鬼太郎が男らしくカバーしていくという図式がすばらしい。この複雑なドラマの核がその一点に集約され、それゆえこの芝居はさわやかな作品となった。アグリーらしさはそこに極まる。女の子たちが男たちをしっかりガードすることで、世界に風穴が明けられていく、というのがこの作品のもうひとつの見方となる。もちろんそれはオリジナル戯曲にある視点ではない。この芝居において、殊更それは前面には出てこない。だが、そこが池田さんのこの芝居に対するひとつの突破口となりえた。


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