建築家であり美術家でもあるアイ・ウェイウェイが監督したドキュメンタリー映画。23カ国の難民キャンプや国境地帯を巡る壮大な人間叙事詩と、宣材には書かれてある。もしも、帰るところを失ったなら、人はどうなるのか、がテーマだ。自分が暮らす場所を追われて国外に生きる場所を見出すために脱出するが、受け入れ先はない。難民収容所での暮らしは人を疲弊させていく。
アイ・ウェイウェイがレポーターになりインタビューをする。ちょっとこれって池上彰のTV番組を見てる感じ。映画としては軽い。しかも、単調なのでちょっと眠くなる。お話として組み立てられてないから、櫛団子のレポートにしか、ならない。映画が主義主張を展開しない。ただ、事実を何の感傷も交えず見せていく。インタビュー部分もあっさりしている。では、つまらないのか、と言われるとそうじゃないのだ。
それより圧倒的な美しさを見せる映像美に酔う。ドローンによる空撮が延々と続く。悲惨な現実をつきつけてくるにも関わらず、美しい映像美に魅了される。ナレーションは廃して、さまざまな人たちによる箴言が挟まれる。それと新聞や雑誌の記事が文字として引用される。過剰な音楽もない。メッセージもいらない。ここに描かれるできごとを見たなら説明なんかいらないし、それだけですべてがわかるからだ。この映画がいいのはそんな無言の部分である。
そして、これはアイ・ウェイウェイによる2時間20分に及ぶ壮大な旅の叙事詩であり、彼の体験した旅の記録でもある。スクリーンを見つめながら、この地球で今起きているとんでもない事実を目視せよ。
今この世界にはすごい数の難民がいる。彼らは住む場所もなく、苦しんでいる。6500万人と言われても想像もつかないけど、映画の中で、同じライフジャケットを付けて、ゴムボートにぎゅうぎゅう詰めになって整然と乗っている700数十名の姿を見ると、圧倒される。ドローンでかなりの遠くから空撮された難民キャンプの蟻のように見える人間の姿にも驚く。自分が見たもの、その迫力だけでいい。充分だ。