涙が止まらなかった。こんなにも悲惨な最期なのに、それでも幸せだと感じる直子は、伶也のことがそんなにも好きだったのだ。ただそれだけのために人生すら投げ出す。というか、彼に捧げて悔いはない。
これをラブストーリーと呼ぶにはあまりに切なすぎて痛ましい。これを、30代の女性が年下のロックバンドのヴォーカリストに嵌まって、身を持ち崩していく話、だなんて割り切れたならバカな女のお話で済ませれる。手の届かないアイドルに嵌まるのでは、もっと笑える。表面だけをなぞるとそういくことになりかねない。だが、彼女の内面を丁寧に綴っていくことで、こんな陳腐な事の顛末が崇高な愛のドラマになる。彼女の一途さが愚かさなんかを超越する。誰かにここまで必死になれる。奇跡のようなお話なのだ。それを31歳から71歳までの40年間のドラマとして綴る。人の一生涯をそこに描き切る。ただそれだけに人生を捧げた。
人が生きるということの真実がそこにはある。これは特別なことだ。だが、誰もが穏便に物事を終わらせようとするとしても、妥協せずに自分の心に正直になり、求めきったなら。これはそんな女性のお話。幸せになったとさ、で終わるお話は物語の中だけで、現実は誰の人生であろうともそんな簡単な括りでは済まされない。この小説に登場する直子の周囲の人たち、そのひとりひとりにしてもそうだ。彼女の場合はその極端な例でしかないのかもしれない。でも、そこまで純粋にすべてを投げうって悔いない。崇高なものをそこに見る。圧倒的な衝撃を受けた。