『風の電話』を見た直後に読んだ本がたまたまこれで、同じように津波ですべてを失った少年(少女)の9年後の今が描かれる。これは『風の電話』の姉妹編のような小説なのだ。同じように17歳の孤独と不安が描かれる。同じように南の町から津波に流された町に戻る旅が描かれる。
余命1年の宣告を受けて故郷の階段町(たぶん尾道、それとも長崎か?)に戻ってきた女性が、ひとりの不思議な少年に出会う。死ぬのが怖い彼女と生きていることが怖い少年。ふたりが心を通わせあう1年間の物語が描かれるのだが、この小説が素晴らしいのは、彼女が死んでしまった後の時間がしっかりと描かれるところにある。不思議な物語で終わるのではなく、ドラマチックな展開の先にある現実がしっかり描かれることで、中心として描かれるふたりの1年間のドラマが際立つ。お話としてのストーリーの骨格とリアルなその後の物語の融合がこの作品の魅力で、そこも『風の電話』に似ている。全体の作りが見事だ。リアルではないのが、リアルになるのはそのバランスのうまさゆえであろう。
喜び以外の4つの感情を失ったことで命を拾った彼が、失ったものを取り戻すことを通して再び失う。何を手にして何を失うのか。このファンタジーの意匠を通して、何を描くのかが大事だろう。このとても切ない物語は、この現実の中で人ができることは何なのかをちゃんと伝える。