久しぶりに彼女の小説を読む。デビュー作『蛇にピアス』以降、あまり興味を持てず、最近は読んでなかったけど、久々に読むこの最新作は、なかなか面白かった。
4話からなる連作。4人がロンド形式でつながる。(でも、最後にもとのところには戻ってこないけど)いずれも直接的ではないけど、東日本大震災の影響を受けている。あの震災によって人生が狂った。こんなはずじゃなかった。少しの齟齬のはずが、気付くとすべてを失っていた。
最初の『Shu』は、震災後、東京では暮らせないと思った男、修人が家族(妻と、生まれてくる子供)を関西に避難させようとする話。震災直後の混乱した状況を背景にした家族崩壊劇。ささいな行き違いのはず、だった。しかし、それが決定的な打撃となり、再起不能となる。成功していた仕事を失い、妻子も失う。
次の『Chi-zu』は、そんな彼が昔付き合った女、千鶴の話。結婚してパリで暮らしていたが、幼い子供を死なせ、心を壊す。その後、夫の転勤でシンガポールに移るが、今は一時帰国した。彼女は修人と連絡を取り、再会する。そして、一夜を過ごす。海外で暮らす彼女が感じたこと。埋まらない心の空白。
『eri』はロンドンで暮らす千鶴の妹、エリナの話。幼い娘を抱え、放射能による汚染から逃れるためロンドンに移住した。離婚して、見知らぬ異国で幼い子供とふたりで暮らす。最後の『朱里』は、ロンドンから帰国した朱里の話。夫の父の介護のため、夫より一足先に帰るのだが、2世帯住宅として建てた自分の家は義兄夫婦に占拠されている。
お話はどんどん震災から離れていくのだが、そんなこと、どうでもいい。震災がテーマではない。それはきっかけでしかない。しかし、スタートはそこだ。思いもしない災難が襲う。そのとき、我々がどういうふうに変わっていくのか。そのことによって、すべてが変わる、こともある。変わってから気づくこともある。
どこかでつながり、でも、実はばらばらの4つの話。それらを通して、僕たちの生きるこの日常がどれだけ危ういものかを知る。確かなものなんかない。でも、何かをよりどころにして、生きていくしかない。さまざまな事情で、子供を失った2人と、幼い子供を抱え、未来に不安を抱き生きる2人。そんな4人のドラマを通して、この長編小説は、大きな意味で「持たざる者」というテーマに収斂する。