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映画・演劇のレビュー

『メイドたちの接吻』

2014-11-26 21:17:09 | 演劇
メイドたちによる奥様ごっこが描かれる。最初はそれが「ごっこ」だとは、思わない。だが、やがて奥様の不在が明確になる。そこに、本物の奥様が帰ってくる。しかし、彼女もまた、もうひとりのメイドで、さらなる奥様ごっこが繰り返されることになる。

ジャン・ジュネの『女中たち』を底本にして佐藤香聲が構成、演出、作曲をした作品。これは佐藤さんとしては、本当に久々のストレートプレイとなる。身体表現や音楽ではなく台詞で見せる。ク・ビレ邸という贅沢な空間をそのまま生かして、そこにあるものをすべて使い切る。そこに繰り広げられるこの耽美的で、エロチック。そんな妖しく不健康な世界に酔う。

彼女たちの危険な遊戯はどこまでが本当で、どこからが冗談なのか、わからない。話が進展していけばいくほど、観客はこの彼女たちが仕掛ける迷宮に迷い込むことになる。警察への密告、旦那様の逮捕、奥様殺害計画と、お話は臨界まで突き進むかのように見える。だが、お話は結末へと向けて、必ずしも、収束されてはいかない。リセットされ、エンドレスに繰り広げられる。不在の奥様は戻らない。妄想は果てしなく続く。緊張感のあるドラマは、ふたりの「奥様とメイド」という関係性の中から生じる。しかし、それはどこで逆転するか、わからない。

だが、そんなふうにして乱反射する模倣と幻惑の世界は、やがて突然の断絶へ向かう。まるで、遊びは終わったとばかりに彼女たちは忽然と去っていく。観客である僕たちが取り残される。

意味を教えるのではなく、突き放す。女たちの遊戯は、彼女たちを支配するこの屋敷の夫婦への反乱なのか。上下関係の逆転は生じるのか。なぞはなぞのまま、終わる。説明はない。僕たちはただ、この狭い空間で繰り広げられる贅沢な1時間の演劇作品が指し示すイメージの洪水に圧倒させるばかりだ。



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