ルカ追悼でも追想でもなく追送というところに、作り手の基本姿勢がうかがえる。しかし、ルカという人物をどんどん追い詰めていこうとする姿勢がもっと欲しかった。岩崎さんはあまりに中島らもを賛美しすぎている。もちろん中島らもへのオマージュを否定するつもりはない。僕だって彼は好きだ。しかし、それによって観客が退いてしまうようではまずい。
作り手が熱くなりすぎて作品との距離感がうまく取れてないのではないか。それに、素材があまりに生々しすぎてへんな感じがする。この主人公と中島らもが余りにだぶりすぎて「小歩危ルカ」ではなく「中島らも」としてこの主人公を見てしまうのだ。それは意図的なのかも知れないが見ていてつらい。中島らもをヒーローにしてしまうのは、なんか違う気がする。
中島らもはこの小説を通して何を書こうとしたのか。彼の心の闇の部分に迫るような作品なのか。それは原作に当たるべきなのだが、この芝居が一つの答えを示してもいいはずだ。なのに、芝居からはそれが伝わらず、客観的な作品としての答えが提示されることなく、主観的な中島らもへのオマージュになる。
前半をミステリーにして、後半は一転音楽劇のような形に作るというのはとても面白い。作品の構成に関してはとてもバランスがとれていて、うまいと思う。不在のルカを、奇異保と亀岡寿行を中心にして、ここに集った男たちが演じ分け、ここにはいない不在の彼に迫っていくというスタイルもいい。68歳の老人からスタートして、時代をどんどん遡り、中学の頃まで行ってしまう。そんな彼の歴史を通して何を見せたかったのか。無頼派作家が長く生き過ぎたことで、自分を見失い、そんな自分を消し去ろうとする。たった1冊の本によって、一生分のお金を手に入れ、何もしなくても生きれるようになり、すべてを喪う。
彼の死を認めるわけではない。彼がここを去り、暗いトンネルの向こうに旅立つこと。カンボジアの地雷の上に立ち、現地の少女の養い親となり、何を望んだのか。それを描いて欲しかったのだ。そして、この彼の旅を、ここに残された人々を通して描いて欲しかった。決して狙いは外してないのだが詰めが甘い。ラストでみんなが歌いだすのも感動的なのだが、何かが違うのだ。
作品の中心にはルカと長い歳月をともにした妻を配置する。その役を岡本康子さんが演じる。白石恭子さんとともに初期の新感線のミューズとして、幾つもの舞台で、僕たちを魅了した彼女が約20年振りに小劇場の芝居に復帰したのだ。今回の作品は、彼女を舞台に連れ戻し、彼女を中心に作品を作ったことで、まず、成功している。不在のルカと向き合う存在として、彼女がいる。彼女を視点として芝居を見ていけるので、とても分かりやすい。彼女が芝居の中で輝いてる。それだけでこの芝居を信じたくなる。そんな事って最近なかった。
華のある役者が少なくなり、役者は演出家の言いなりになることが正しいことだとでも思い、それで自分の責務をこなそうとする傾向が強い近年の小劇場界で、岡本さんが本来舞台において役者の果たすべき役割を示してくれたことは大きい。
作り手が熱くなりすぎて作品との距離感がうまく取れてないのではないか。それに、素材があまりに生々しすぎてへんな感じがする。この主人公と中島らもが余りにだぶりすぎて「小歩危ルカ」ではなく「中島らも」としてこの主人公を見てしまうのだ。それは意図的なのかも知れないが見ていてつらい。中島らもをヒーローにしてしまうのは、なんか違う気がする。
中島らもはこの小説を通して何を書こうとしたのか。彼の心の闇の部分に迫るような作品なのか。それは原作に当たるべきなのだが、この芝居が一つの答えを示してもいいはずだ。なのに、芝居からはそれが伝わらず、客観的な作品としての答えが提示されることなく、主観的な中島らもへのオマージュになる。
前半をミステリーにして、後半は一転音楽劇のような形に作るというのはとても面白い。作品の構成に関してはとてもバランスがとれていて、うまいと思う。不在のルカを、奇異保と亀岡寿行を中心にして、ここに集った男たちが演じ分け、ここにはいない不在の彼に迫っていくというスタイルもいい。68歳の老人からスタートして、時代をどんどん遡り、中学の頃まで行ってしまう。そんな彼の歴史を通して何を見せたかったのか。無頼派作家が長く生き過ぎたことで、自分を見失い、そんな自分を消し去ろうとする。たった1冊の本によって、一生分のお金を手に入れ、何もしなくても生きれるようになり、すべてを喪う。
彼の死を認めるわけではない。彼がここを去り、暗いトンネルの向こうに旅立つこと。カンボジアの地雷の上に立ち、現地の少女の養い親となり、何を望んだのか。それを描いて欲しかったのだ。そして、この彼の旅を、ここに残された人々を通して描いて欲しかった。決して狙いは外してないのだが詰めが甘い。ラストでみんなが歌いだすのも感動的なのだが、何かが違うのだ。
作品の中心にはルカと長い歳月をともにした妻を配置する。その役を岡本康子さんが演じる。白石恭子さんとともに初期の新感線のミューズとして、幾つもの舞台で、僕たちを魅了した彼女が約20年振りに小劇場の芝居に復帰したのだ。今回の作品は、彼女を舞台に連れ戻し、彼女を中心に作品を作ったことで、まず、成功している。不在のルカと向き合う存在として、彼女がいる。彼女を視点として芝居を見ていけるので、とても分かりやすい。彼女が芝居の中で輝いてる。それだけでこの芝居を信じたくなる。そんな事って最近なかった。
華のある役者が少なくなり、役者は演出家の言いなりになることが正しいことだとでも思い、それで自分の責務をこなそうとする傾向が強い近年の小劇場界で、岡本さんが本来舞台において役者の果たすべき役割を示してくれたことは大きい。