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映画・演劇のレビュー

矢崎存美『湯治場のぶたぶた』

2024-03-30 04:13:00 | その他

こんなアホな設定の小説はなかなかないだろう。これでなんとシリーズ36作目になるらしい。そんなことも知らなかった。矢崎存美だからなんとなく手にして読み始めたのだが、主人公のオヤジ同様何も知らない僕もぶたぶたが登場した瞬間、唖然とした。あり得ない。ぬいぐるみの豚が車に乗って迎えに来るなんて。

 最初のエピソード(短編連作だということも知らなかった)は、心を病んだ男が2週間ひなびた温泉宿で療養するという話である。お前は志賀直哉かい、とツッコミを入れてしまうような設定。だけど何故か納得してしまう。ぶたぶたがあまりにさりげなく自然なままそこに存在するからだ。

長編ではなく、お話は3話からなる連作だった。これもお約束らしい。これまでの35冊もそうして描かれているみたいだ。ぶたぶたがさまざまな設定でいろんなところにいる。カフェ、図書館、洋菓子屋にお医者さんや本屋さんにもなる。そんなふうにして35冊。今回は湯治場が舞台になる。それだけの話。

たまたま読んだエピソードが作品全体のイメージを象徴する温泉宿って、偶然ながらよく出来た出会いではないか。ぶたぶたは癒しの存在であり、セラピー。ただそこにいるだけで心が安まる。

今回の件もそうだったのだろう。3話目の何があっても泣けない女性の話も見事だった。初めてだったから僕も最初は驚いた。だけど3話目になり、いつも通りのぶたぶたさんのエピソードを読み、安心と安定、落ち着いて読みながら、本質に触れた気がする。さりげなく救われる。あくまでも自然体。とてもいいものに出会えて嬉しい。ぬいぐるみがしゃべるし、癒す。(もちろんぬいぐるみは喋らなくてもなくても癒やすけど)

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