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映画・演劇のレビュー

辻村深月『本日は大安なり』

2011-10-11 21:52:42 | その他
 その日、結婚式を同じホテルで迎える4組のカップル、彼らの結婚式、そこに登場する新郎新婦。もちろん彼らだけでなく、様々な人々、それを取り仕切るウエディング・プランナー。これは、彼らが無事に挙式を終えることが出来るのかを描くシチュエーション・コメディーだ。辻村深月がこういうエンタメ小説を書くなんて夢にも思わなかった。タッチも軽く、テンポもいい。だが、話にはちょっと無理がある。彼女は従来のリアリズムの文体を放棄して、エンタメに徹する。最後のまとめ方はやはり苦しかったみたいだけど、なんとかギリギリで辻褄が合うように作られてある。かなりあぶなかったけど、エンタメだから、許される範囲内である。

 5人の視点から4つの挙式を巡るドラマがリアルタイムで同時進行する。そっくりの双子が入れ替わって結婚式に臨む、とか、自分の婚約者を奪ったわがまま女が、別の男と結婚するのをウエディング・プランナーとして世話するとか、大好きな叔母の結婚を阻止する小学生だとか、既婚者であるのに独身のフリをして騙していた女と、結婚式をしなければならなくなる男がその式を無効にするべく、式場に火を放とうとするとか、(以上全4話の思いっきりアバウトな概略)もう、大概な話ばかりだし、かなり無茶な設定である。

 これではリアルとはほど遠い。だが、そんな作られた話を通して描かれる人間模様には、リアリティーがある。個々のキャラクターや考え方、生き方には嘘がないからだ。このあり得ない誇張された話を通して、ある種のパターンだが、どこにでもいる普通の人々の愛おしい姿、生き様がしっかりと伝わってくるようになっている。だから読み終えたときいい気分になれる。バカバカしかったけど、許せる。

 厨房でぼやが出て、という展開で収めるのは、なんだかなぁ、とは思う。だが、この設定ならこうでもしなければ、どうにもこうにもならないだろう。全てを丸く収めなくてはエンタメにはならない。しかも、読者を幸せな気分にさせなくてはならないし。

 人生にはいろんなことがある。結婚という人生の節目に臨んで、自分ひとりの(あるいは自分たち2人だけの)問題としてではなく、周囲のみんなを巻き込んで、生きていくことの意味を考えさせてくれる。極限状態で、真実と出会う。確かにこれは極上のエンタメであろう。


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