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映画・演劇のレビュー

『トータルリコール』

2012-08-19 06:59:27 | 映画
 『ダイハード4・0』を監督したレン・ワイズマンが、ポール・バーホーベンによって20年程前に映画化された作品のリメイクに挑む。主人公が、超人シュワルツェネッガーから、普通の人コリン・ファレルになっただけで、全くイメージの異なる作品となった。ちゃんとリアルなのだ。ディックの短編小説の映画化で、イメージとしては同じ原作者によるリドリー・スコットの『ブレードランナー』に近い感触を目指しているようだ。特に貧民層の住むオーストラリアのヴィジュアルはまさにあの映画と同じ。いつも雨が降り、人が溢れかえる。かつての香港をモデルにしたような猥雑で禍々しい世界だ。

 大きな戦争があり、世界は壊滅的な打撃を受け、人間が生活出来る空間はイギリスとオーストラリアのみ(!)になってしまった世界が舞台だ。この2つの地域のみに居住することになった人類は富裕層の暮らすイギリスと貧民層の住むオーストラリアに完全に分離される。貧しい労働者は、毎日オーストラリアからイギリスに行き肉体労働に勤しむ。地球のコアを抜けて短時間で移動できる列車(というか、エレベータ)に乗り、通勤する。主人公は犯罪多発地域で働く警官の妻と2人で慎ましく暮らす。ある日、彼は憂さ晴らしから、興味本位でリコール社の記憶を買う店(そういう怪しい施設があるのだ。)に行く。ここから映画は始まる。


 凄まじい迫力のアクションである。ノンストップで、ド派手なアクションシーンがつるべ打ち。目まぐるしい展開に振り落とされそうになる。しかも、CGを抑えて、巨大なセットを作り、そこを縦横無尽に駆使して、身体を張ったアクションの連続技。さすがあの『ダイハード4・0』の監督である。究極のアクション巨編。いきなり追いかけられてきて、何が何だかわからないまま、ただ逃げるしかない。必死に逃げて逃げて、戦う。よくあるパターン。そこから徐々に真実が見えて来るという展開も定番。だが、一瞬たりとも立ち止まることはない。これでもか、これでもか、と、まるで香港映画。

 マクティアナンの『ダイハード』1・3とも、レニー・ハーリンの『ダイハード2』とも違う局地戦に挑んだワイズマンならではの、ド派手なくせに、ちまちましたこだわりのアクションシークエンスがすばらしい。いつまで続くのか、と唖然とさせられる。ストーリーの方は何が何だか分からなくなる2重3重のどんでん返しで、夢オチすれすれのところで、終わらせるのも、実はあまり芸のない話だが、あくまでもこれは驚異のビジュアルのもと、展開するアクション映画なので許そう。

 それにしても、こういう大作が、とてもひっそりと公開(劇場数はかなり多いけど、小さな劇場しか用意されない)され、地味な動員しか望めないというのは、なんかもったいない話だが、これも、今の日本映画界の現状なのだろう。キャストも地味だし、お話も古いことは認める。だが、これだけお金と知恵を絞ったのに、やはり、なんかこれではもったいない気がする。
 

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