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映画・演劇のレビュー

『あぜみちのダンディー』

2012-03-11 17:53:25 | 映画
石井裕也が「中年のおやじ」を主人公にした映画を撮る。前半はあまりに主人公の光石研演じる父親がわがままで,見ていて不愉快だった。友人である田口トモロヲに対する接し方も嫌だし、2人の子供たちへの対応もあれはないだろ、と思わされた。だが、だんだんこのダメ男のバカなくせに変にプライドが高くて、人と上手く付き合えないところに、共感させられるようになる。

自分の父親をモデルにした映画なのだろう。2人の思春期の息子(石井監督の前作『君と歩こう』で主演した森岡龍が演じる。彼は石井裕也の分身なのだろう。顔もよく似ている!)と娘を抱え、彼らとどう接したらいいのか、わからない。でも、父親としての威厳は保ちたい。だから、結局上手くいかない。腹が立つ。ストレスは溜まるばかりだ。子供たちはそんな父親を嫌っているわけではない。彼らもまた、そんな父親と、どう接したらいいのかが、わからないのだ。

 もどかしい映画である。それは石井裕也自身の父への気持ちでもある。そのもどかしさを主人公は田口トモロヲにぶつける。ここまで親友に甘えれる50男って、凄い。いい歳した大人が中学生の時のまま、友だちに頼るし、理不尽なまでに甘えるのだ。しかも、友だちはそれを許す。そんな描写を見ながら、観客である僕はさらにもどかしい気分にさせられるのだが。

 正直言って、この映画はとても下手な映画だ。わざとらしい描写も多々ある。いちいち靴下の臭いをかぐのも、なんだかなぁ、と思う。それに、しつこすぎる。朴訥としていて、まるでスマートではない。だが、だんだんそんなもどかしさが快感になってくる。

 終盤のミュージカルシーンは秀逸だ。死んでしまった妻が写真から出てきて一緒にウサギのダンスを踊る。あのへんてこな振り付けがいい。父、母、そして兄、最後には妹も、家族4人が一緒に踊る。感動的だ。結局最後まで見たとき、これはこれで悪くはないなと思う。とても石井裕也らしい作品になっているからだ。確かに下手だけど、味がある。素朴な映画だし、いいと思う。



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