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映画・演劇のレビュー

『天安門 恋人たち』

2008-11-03 17:22:00 | 映画
 87年から02年まで15年間に及ぶ個人史と中国(その背後には当然、世界の動きも)の歴史を重ね合わせながら描く恋愛映画。ひとりの女性が世界が揺れ動いていく中、どう生きたのかが描かれる。天安門事件を真正面から取りあげた初めての中国映画。その結果、本国では上映禁止になり、ロウ・イエ監督も5年間の謹慎を申し付けられたらしい。過激な性描写と政治的な問題を扱った事、タブーに触れたら政府の検閲が入るのはいつものことだ。だが、こんな題材の映画なのに、途中で企画を潰されることなく完成できたことは喜びたい。

 北朝鮮に隣接する中国北東部の田舎町から北京の大学に入学したヒロイン(ハオ・レイ)が、大学でさまざまな人たちと出会い、激動の時代のなかで心を揺らす。ひとりの男を好きになり、彼を独占したいと思うが、そう思う事で彼の心が自分から離れていく日を不安に思い、心がすさんでいく。どこにでもいる普通の女の子でしかない。だが、中国の民主化の波に飲み込まれて、天安門事件に巻き込まれ、中国が、そして世界が大きく変わっていく節目の動乱を目撃することで自分が今生きていることの意味を世界的な規模で考える。

 そんな時代の中で、だが彼女はひとりの男に執着し、自分の問題から離れられない。男と繫がっていることで安心し、でも一時でも離れていると不安になる。体だけのつながりには何の意味もない。そんなことわかっている。なのに、何人もの男と関係を持ちその度にさらなる孤独にとらわれていく。

 天安門事件をテーマにした映画だと思っていたのに、そこは通過点でしかない。いったいどこまでこの映画は行ってしまうのか見ていてオロオロしてしまうくらいだ。ベルリンの壁崩壊、ソビエト連邦解体、香港本土返還、そして、中国からヨーロッパへと、舞台を広げていく。21世紀に突入し、再び2人が重慶で再会するラストエピソードまで、その15年に及ぶ歴史に中で、さらにその先までも見据えていく。

映画のラストからさらに5年経つ。この20年間の中で自分たちはいったいどこまで遠くに行ってしまったのだろうか。さらにはこれからどこまで行くのか。中国の人たちのそんな思いがこの映画の背景にはある。北京オリンピック直前に作られたこの映画はジャ・ジャンクーの『世界』や『長江哀歌』ほどのインパクトはないが、今の中国について考えさせられる大作である。

 ロウ・イエ監督は自分が生きたこの激動の時代を1本の映画に中に封じ込める。これは、心震える渾身の力作である。


 余談だが、タイトルが気になる。この映画の原題は『頤和園』(英語タイトルは『サマー・パレス』)なぜこんなタイトルになったのだろうか。気になる。

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