かなり微妙な作品に仕上がっている。これでは解らないという人も多いのではないか。作、演出の中山治雄さんはいつもながら、とてもテンションの低い芝居を作る。こういう過激な内容で犯罪すれすれのものを扱っても、いつも同じである。
今まで静かに話していた男が、ある瞬間スイッチが入ったように逆ギレしてしまい、暴走していく。静かなドラマだったのに、いきなり暴行、監禁のバイオレンスになってしまう。その突然の展開には驚かされる。おどおどしながらも、主人公の暴走は止まらない。どんどんエスカレートする。
これってあんまりではないか、なんて思いながら、呆れてしまう。しかし、ふと気付くことになる。これは全てこの男の頭の中にある妄想でしかないのではないか、と。だが、ではどこからが、妄想で、どこまでは現実なのか、なんて考えると、その線引きは一切なされていないから、正直なところよく解らない。もちろん「ここからは妄想です」なんて説明をされても面白くはない。この捩れた物語をそのまま受け入れていけばよい。そんな風に中山さんは作っている。
主人公の松田を演じた相良幸四郎さんがとてもいい。彼のキャラクターをこんなにも上手く生かせたのは、初めてのことではないか。とても真面目そうで、その真面目すぎることが、怖い。工場で働くガンダムおたくの30代の男。女には全くもてない。スナックの女に入れ込み彼女を好きになる。女には同棲しているチンピラがいるが、暴力を振るわれ、松田のところに逃げてくる。困っている彼女を家に匿う。相良さんにぴったりの役どころである。
前半は静かな会話劇。盛んにやって来るアパートの大家の娘(彼に好意を抱いている)とのやり取りをアクセントに、彼が好きな女を匿うという行為に夢中になる姿が描かれる。女の妹や、工場の奥さん、同僚、さらには女を奪い返しにくるチンピラ。そんな周囲に人たちとのやり取りが淡々と描かれる。だが、それが、女がもう一度男とよりを戻す、と言った事で、話は急展開する。
彼は逆上して女の首を絞める。男ではなくまず、女に手をかける。チンピラに殴られ取っ組み合いになる。そこにやってきた大家の娘は、彼を助けるため、チンピラの後頭部をバーベルで二度殴る。あれなら確実に死ぬはずだ。
なのに、死なない。この後監禁劇へとエスカレートするのだが、そのリアリティーのなさに、愕然とした時、これは全てが妄想だったのだと気付く。そして、その妄想は実は最初の場面からだったのではないか、と思ったのは、芝居が終わってからのことだ。
この芝居を最初は現実と思い、読み込んでいくから、徐々にエスカレートしていくことに驚くが、全ては松田が作り上げた妄想である、と思うと納得がいく。だんじりから落ちた工場の同僚の男が、アパートの壁を突き破って部屋の中に飛んできて、その時出来た穴から光が溢れてその中に松田が吸い込まれていく、という明らかに夢でしかない描写にドラマは収斂されていく。
中山さんは正直言って観客に対して親切ではない作り方をする。そうすることで、この夢物語を完結させる。その行為は確信犯的である。
今まで静かに話していた男が、ある瞬間スイッチが入ったように逆ギレしてしまい、暴走していく。静かなドラマだったのに、いきなり暴行、監禁のバイオレンスになってしまう。その突然の展開には驚かされる。おどおどしながらも、主人公の暴走は止まらない。どんどんエスカレートする。
これってあんまりではないか、なんて思いながら、呆れてしまう。しかし、ふと気付くことになる。これは全てこの男の頭の中にある妄想でしかないのではないか、と。だが、ではどこからが、妄想で、どこまでは現実なのか、なんて考えると、その線引きは一切なされていないから、正直なところよく解らない。もちろん「ここからは妄想です」なんて説明をされても面白くはない。この捩れた物語をそのまま受け入れていけばよい。そんな風に中山さんは作っている。
主人公の松田を演じた相良幸四郎さんがとてもいい。彼のキャラクターをこんなにも上手く生かせたのは、初めてのことではないか。とても真面目そうで、その真面目すぎることが、怖い。工場で働くガンダムおたくの30代の男。女には全くもてない。スナックの女に入れ込み彼女を好きになる。女には同棲しているチンピラがいるが、暴力を振るわれ、松田のところに逃げてくる。困っている彼女を家に匿う。相良さんにぴったりの役どころである。
前半は静かな会話劇。盛んにやって来るアパートの大家の娘(彼に好意を抱いている)とのやり取りをアクセントに、彼が好きな女を匿うという行為に夢中になる姿が描かれる。女の妹や、工場の奥さん、同僚、さらには女を奪い返しにくるチンピラ。そんな周囲に人たちとのやり取りが淡々と描かれる。だが、それが、女がもう一度男とよりを戻す、と言った事で、話は急展開する。
彼は逆上して女の首を絞める。男ではなくまず、女に手をかける。チンピラに殴られ取っ組み合いになる。そこにやってきた大家の娘は、彼を助けるため、チンピラの後頭部をバーベルで二度殴る。あれなら確実に死ぬはずだ。
なのに、死なない。この後監禁劇へとエスカレートするのだが、そのリアリティーのなさに、愕然とした時、これは全てが妄想だったのだと気付く。そして、その妄想は実は最初の場面からだったのではないか、と思ったのは、芝居が終わってからのことだ。
この芝居を最初は現実と思い、読み込んでいくから、徐々にエスカレートしていくことに驚くが、全ては松田が作り上げた妄想である、と思うと納得がいく。だんじりから落ちた工場の同僚の男が、アパートの壁を突き破って部屋の中に飛んできて、その時出来た穴から光が溢れてその中に松田が吸い込まれていく、という明らかに夢でしかない描写にドラマは収斂されていく。
中山さんは正直言って観客に対して親切ではない作り方をする。そうすることで、この夢物語を完結させる。その行為は確信犯的である。