ポプラ社の新人賞(特別賞)受賞作家の第二作である新刊。それだけで読みたくなる。ポプラ社の本は一番信用できる。この作家もそうだ。新しいタイプの作品で読みながらこの人は確信犯だなぁと感心する。ストーリーではなく、ほんの少しの心情のズレからの関係性を丁寧に綴る。もどかしくなるくらいに些細な展開。そう言えば前作である『街に躍ねる』も読んでいたことに後から気づく。
『愛が一番』の同棲することになったふたりのすれ違いは,お互いの好きの位相が微妙に違うこと。優先順位の問題だけではなく、生き方や感じ方の問題だから擦り合わせは難しい。『毎日のグミ』の久々に一緒に暮らすことになった父と娘の関係もそう。やはりもどかしい。お互いに遠慮がありぎこちない。しばらく離れていただけではない。彼女が幼い頃に離婚して、思春期の今,ふたりだけで暮らすことになって戸惑いや躊躇いばかりが先行する。彼女は優しいお父さんを「滝さん」と苗字で呼んでしまう。父は彼女が子どもの頃好きだったグミを買ってくる。やはり微妙にすれ違う。
5つの短編はいづれも同居、引っ越しという新しい生活、環境、関係の変化がベースになる。一部登場人物も重なる。最初のエピソードの主人公である遙の出て来る話が3話。(1、3、5話)彼の働く塾の同僚や友人たちとの話である。2、4話は女性が主人公で4話は隣人のおばあさんとの交流を描く。2話は先にも書いたが、父と同居する話。
なんでもないような些細な出来事からお互いの関係性が浮かび上がり、動き出す。今日のかたすみにあったできごと。その積み重ねの先にあるもの。少しずつ動く時間を見つめるように小さな物語がそこにはあって、明日に続く。