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映画・演劇のレビュー

重松清『十字架』

2010-09-23 20:58:45 | その他
 こんなにも暗くて思い話をよく書くよな、と思う。重松清のまじめさ、その使命感には、少し腰が引けてしまう。出来ることならここから目をそらしてしまいたい。だけど、そうするわけにはいかないから、しっかり最後までこの小説と向き合う。それは先日見たアンジェイ・ワイダの『カティンの森』に関してもいえることだ。これを見つめることは人間としての義務だと思う。

 嫌なことから、目を背けて、見て見ぬふりすることで、逃げ切れるのならそれでいい、と僕たちはついつい思ってしまう。だが、イジメの標的にあった人間にはそんなことは不可能だ。なぜ、自分だけが虐められなくてはならないのか。その理不尽さを呪う。しかし、どうしようもない。そこから逃げられるわけはない。誰も助けてはくれない。自殺した中2の少年の遺した遺書に書かれた4人の名前。彼を虐めていた「許さない」と書かれた2人の話ではない。これは「親友」と書かれた少年と、「ごめんなさい」と書かれた少女の話だ。彼らが抱えることになった十字架は重い。

 自分は彼の親友なんかではなかった。彼へのいじめを見て見ぬふりしていた他のみんなと同じだった。なのに、死んだ少年は、親友でいてくれて「ありがとう」と書いた。そこには死んでいった少年の願望があったのか。昔のように彼が親友であって欲しかったと願ったからか。わからない。

 これはその「なぜなのか」を探す旅である。もう語られることもない死んでいった少年の想いが描かれる。親友、と書かれた少年を通して、なんと20年以上にも及ぶ長い物語として描かれるのである。それでも、この傷が癒えることはない。


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