林海象監督の最新作。2013年作品だから、公開からはもう2年になる。迂闊にも、この映画の存在をつい先日まで知らなかった。少し前、ツタヤの新作コーナーでたまたま見つけたのだ。なんとなく手に取り、えっ、と思った。林海象が永瀬主演で! という驚きだ。昨年の秋にリリースされていた。地味な置き方(1本のみだし)がなされていて、見逃していたわけだ。
たまたま手に取り、気づく。しかも、原作は稲垣足穂。大々的に劇場公開されたわけではなく、ミニシアターで短期間ひっそり公開されたようだ。京都造形大が制作して、そこの講師である林海象が、生徒たちも使って作った実習作品のような映画。しかし、この自主製作映画は、安易な作品ではない。彼が商業的な制約もなく、自由自在に作る作品で、実にのびのびしている。
前半こそ主演は無名の少女たちなのだが、後半は永瀬正敏を主役に配して、(というか、最初は一切彼が出ない)2部構成、さらには佐野史郎や井浦新たちも加えた豪華なキャスティングにしてある。デビュー作『夢見るように眠りたい』の頃に戻ったような初々しさ。懐かしい夢の中の世界で少年たちが(演じるのは少女たち)が自由に過ごす時間が描かれる。宇宙の神秘に驚き、星をみつめ、空中に浮かぶ島を目指す。夢見る映画なのだ。
だが、後半、一転して、大人になった主人公の自堕落な日々が描かれることになる。その対比は鮮やか。夢見る頃と、悪夢のような現実。その中で逃避し続ける男。どこまでも落ちていく。彼は小説家で、でも、自分の小説を信じられない。酒に溺れ、馴染みの質屋に小説の原稿を入れて(そんなものを質入れできるのか?)また、酒を飲む。
まるで別々の世界のようなふたつの世界が、やがて、ひとつになる。少年の頃に自分がやってきて、ふたりでもう一度小説を書く。机を並べて、書く。やがて、そこに弥勒が現れてくる。なんだか、わかったような、わからんような、謎の多い映画である。独りよがりすれすれアウト、て感じか。でも、ビジュアルは美しいし、モノクロの世界は懐かしい。こんな映画がたまにあってもいい。