『アイヌ神謡集』を作り上げた知里幸恵を描く評伝。北海道から金田一京助に誘われて単身、東京に出てきた19歳の少女の死までの短い日々を描く。大正12年。差別と同情。理解あるフリ。彼女はアイヌで女性。
一気に読ませる。だいたい描かれる時間も短い。たった19年の人生。その最後の1年にも満たない時間。だけど、彼女はたったひとりで東京までやって来た。知らない場所でたまたま出会った国語学者に誘われてこんなにも遠くまで来た。アイヌの伝承を伝えるために。
金田一さんは立派な学者で優しいし真面目な人。だけど、何か違う。いや、和人はみんな同じか。作家の百合子さんも、いい人だとは思うけど、違う。最初は付き合いにくく思った金田一の妻の静江さんに共感する。弱者だから? 虐げられた女性だったから? これは偉人伝ではなく、ひとりのアイヌの女性の命を賭けた旅。