この作品は、ストーリーに起伏がなく、お話に意外性もない。淡々と目の前の事実を積み重ねていくことで見えてくるものを描く。だから、これはとても難しい芝居だと思う。
障害を持つ子どもたちを収容する施設が舞台となる。そこにやってきたひとりの少年が、多重人格の少女と出会う。彼は人に触れられるのを恐怖する。そんな彼が彼女を守るため、自分から他者に(彼女に)心を開くことになる。そこまでの心の軌跡を2部構成、2時間半の作品として仕立てた。
これは一気に見せたなら2時間に仕上がるのだけれど、往来はそんなことはしない。観客に優しいからだ。見やすいように、ちゃんと途中休憩の15分を用意する。要するに、どんな作品でも(こんな小さな作品でも、ということだ)大作仕立てにしてしまうのだ。(だからそれは諸刃の剣なのだ)
この単調な芝居をラストまで見せるためには、飽きさせないことは大事で、これはこれでいい、とは思う。へんにダンスシーンやら派手な見せ場を用意して、ショーアップする必要はない。単調さを武器にするくらいの覚悟が必要だ。そのためには主人公であるふたりの男女の心の交流がもっと身近なものとして伝わらなくてはなるまい。彼らふたりの心に寄り添う演出が必要だ。
彼らを見守る医師(もちろん要冷蔵)の視点から、冷静に彼らを観察することで、そこから溢れてしまう二人の心が伝わる、という図式が作れたなら、これはとてもいい作品になったはずだ。だが、そうはならない。視点が定まらないのだ。最初は少年を主人公にして、彼の視点で描き始めたように見えたけど、徐々に彼が作品に埋もれていく。だから、どっちつかずになっていくのが惜しい。