この小説が描く不安と哀しみはある種の地獄ではないか。どうしようもない傷みを抱えて生きることになった日々。ある日、知らない中年女が夫の浮気相手だといって訪ねてくる。そのくたびれた女は夫と付き合っている。夫とはセックスはしてない。夫が不能だから。もちろんそれはふたりだけの秘密。
夫は子供の頃に受けた性的虐待を今も抱えたままで生きていた。その事実を聞かされて傷つく自分の心と向き合う。向き合いたくはないけど、知らなかった頃には戻れない。ただの浮気や不倫なら怒り、拒絶して離婚すればいい。許すならそれでもいい。だがこの場合はそうではない。だからといって夫を許せないし、もう受け入れられない。
専業主婦として彼の給料で生活しているから我慢するべきだ、なんて誰も言わないけど(だいたい彼の性状を知るものは妻である自分以外いない)彼女はどうしていいか、わからない。年上の醜い女に対してしか性欲を抱けないこと。彼はいつからそんなふうになったのか。多くは語られない。少年時代に年配のおばさんに犯されたことがセックスレスの原因であると知らされても納得できない。
自分もお金で買った他の男セックスをする。復讐ではない。満たされない傷みからでもない。お話はまるで進まない。停滞したまま終わる。やりきれない想いだけが残る。