![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1e/e2/c4d73a2078cc32f63f96261074b78784.jpg)
あらゆるジャンルの小説を手掛けるあさのあつこだが、こういう家族小説を扱っても見事だ。この緊張感と意外な展開に魅了される。サスペンスが最後まで持続する。簡単なところで落ち着かさない。ちゃんと子供たちが描かれるのは当然だが、それだけではない。主人公の主婦の抱える問題が、単なる不安には収まらない。社会に目を向けることなく、小さな世界で閉じていたのが、高校生の息子の反発(そして娘の肥満)という家庭内の小さな齟齬から始まり、さらには表面的には優しい夫とへの不満が、この静かで小さな都心から離れた町で起きたテロ事件(ではなく、ある男のストレスからの放火事件なのだが)をきっかけに噴出する。しかし、それは外国人労働者へのパッシングへとつながり、お話は意外な方向へと転じていく。
思いもしない展開は主人公の問題だが、そこに読んでいる僕たちも完全に感情移入させられるのだ。実に上手い。『彼女の物語』(この小説の新聞連載時のタイトル)が『わたしの物語』(この小説の第6章であり最終章)へとつながる。ここに描かれる問題は「人ごと」ではない。外国人移民の問題やヘイトスピーチ、彼らへのパッシング。そんなこの国の抱える社会問題を内包して、息子と向き合うラストへと突入する。とてもよくできた作品だ。