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映画・演劇のレビュー

劇団大阪シニア演劇大学『幸せ倶楽部』

2015-07-23 21:26:16 | 演劇

5年間限定での活動ということでスタートした劇団大阪によるシニア演劇大学の最終公演である。(ただし、この後もスタイルを変えて継続されるようだ。めでたい!)この超大作を2班編成(ほぼすべてにおいてダブルキャストだ!)なんと総勢40名以上のキャストで送る。熊本一さん演出による渾身の力作。

大阪、新世界が舞台となる。(ちょうど、この芝居の舞台となる場所にある一心寺シアター倶楽で上演された)明治36年第5回内国勧業博覧会がここで開催され、明治45年に通天閣は完成した。当時の最新である新感覚の遊園地「ルナパーク」は繁昌していたようだが、この大阪モダンの象徴もやがて寂れて、廃れていく。

この芝居は大正3年から4年にかけてのほんの短い時間の物語だ。ルナパークの賑わいから取り残された場所が舞台となる。新世界、通天閣の下、合併通り、ここで雑貨店「ハイカラ屋」を営む男を中心にして、ここで暮した人たちの哀歓を描く2幕7場からなる2時間越えの作品である。

お話はよくあるような人情劇だが、「ある時代、ある場所」(それは別に匿名の場所でもよかった。だが、敢えて通天閣に設定した)を舞台にして、そこで生きる人たちを最大限の愛しさを込めて描く。主人公の圭介は雑貨屋を廃業して老人たちが集う場所「ハッピー倶楽部」を興す。ここはちょっとした老人ホームである。どこにも居場所のない厄介者である老人たちが毎日ここにやってきて、自由な時間を過ごす。大正時代を描くのだが今の時代を先取りしている。当時、そんな場所が果たしてあったのかは知らない。でも、この設定はとても興味深い。そこに集う老人たちを現役の老人が演じるのだ。これは鬼に金棒である。

だが、これは決して簡単な作品ではない。素人に毛が生えた程度の人たち(すみません、本当に失礼な言い方ですよね)にとって、これは大変なことだ。そんな難しい作品に彼等シニア軍団が挑戦したのである。

老人たちを主人公にする作品であること。やがて、消えていく運命にある場所。その一瞬の輝きを描く。なんだか切ない。その儚さと、だからこそ愛おしい彼らの姿を、実際にシニアである面々は等身大に演じるのだ。そこでの線香花火のような時間がすばらしい。

お話の中心となるのはここのオーナーである圭介と彼の家族、彼の周辺のドラマなのだが、どちらかというとガヤでしかないハッピー倶楽部に集う面々の、どうでもいいようなやり取りがこの作品を支える。そんな中でも圭介の父、圭蔵(隅田公美さんの天然な芝居は特筆もの)と向かいの古着屋の老人(斎藤誠さんがすばらしい)この二人のやり取りが秀逸。彼らを見ているだけでも、この作品を見たかいがある。


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