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映画・演劇のレビュー

『ドント・ルック・アップ』

2022-01-03 11:19:18 | 映画

例年12月になると続々と「お正月映画」と呼ばれる作品が公開され映画館はにぎわう。フライングした拡大公開の超話題作が11月の終わりに公開されるようになったのはいつ頃からだろうか。(『ジョーズ』くらいからかなぁ)

元旦をまたぐお正月映画は一年のトップバッターであり、各映画会社が自信をもって公開する「特別」であり、渾身の一作ばかりだった。それは豪華で華やか、幸せな気分にさせてくれる。そんな映画を見たくて、家族で映画館に行く。そんな時代がつい最近まで確かにあった、はずだ。年末の特番では必ず「お正月映画全部見せます!」なんてのも、あった。

だけど、今ではそんな風習は廃れてしまった。映画は娯楽の王様ではない。ただの数ある娯楽のひとつでしかない。いや、それですらない。今年のお正月映画のラインナップを見渡してみても、特別感はどこにもない。地味だ、というのではなく、ただただ普通でしかないな、と思う。一番のヒットは『呪術大戦〇』のようだ。ハリウッド大作は『マトリックス』の新作や、アニメの『ボス・ベイビー』の新作に『キングスマン』の新作、とみんなヒット作の続編ばかり。日本映画は『あなたの番です』『99・9』なんていうTVシリーズの劇場版。そこには新鮮さはない。だから大衆はわざわざ劇場に足を運ぼうとは思わないだろう。ワクワクやドキドキはそこには皆無だ。

そんな2022年のお正月映画の中に、1本、今年のお正月映画最大のスケールと新鮮な興奮を呼ぶ作品がある。いや、これは「お正月映画の中」には入らない作品なのかもしれないが。それがネットフリックスがクリスマスから公開している『ドント・ルック・アップ』である。(ようやく、ここからが本題)。12月上旬からちゃんと劇場でも先行公開されているけど、12月24日から配信がスタートした。

こういう映画が本来の「お正月映画」であろう。潤沢な予算を思う存分使い、豪華なキャストを揃え、驚くべきストーリー展開で、2時間18分の長尺をラストまで一気に見せる。これは衝撃の超大作映画だ。しかも、安直な娯楽映画ではない。ここまで毒のある映画をレオナルド・ディカプリオ主演の娯楽大作として作ってしまう太っ腹さ。ネットフリックスはなんでもありである。これが配信作品として公開されるというのが今の時代を象徴する。

凄いけど、なんだか寂しい。映画館なんてもう不要だ、と言われているみたいだ。映画館はみんなのものではなく、一部のマニアだけのものになりつつある。マスを抱え込むのではなく、好事家だけのミニマムなものになる。この映画の素晴らしさを貶めるのではない。この映画自身は認める、というか、こんな映画が作れることに感動している。

『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』『日本沈没』といったデザスター映画のルックスを持つけど、この映画は、そこから思いがけない展開を提示していく。それが荒唐無稽ではなく、とんでもない展開だけど、とてもリアルで怖い。あと半年ほどで地球がなくなるかもしれないという事態にどう向き合うのかが描かれる。11月に同じくネットフリックスで公開された中国映画の超大作『流転の地球』のバカバカしさは今までのこの手の映画のパターンだったのだが、この映画はそういう定石を完全に覆す。

大統領(なんとメリル・ストリープだ!)の愚かさに唖然とするけど、そんなのは序の口。お話はそこからどんどんエスカレートしていく。表面上ではSF大作というスタイルを保ちながら、その実、あきれるような現実をリアルに見せていく。こういうことって十分あり得ると思わされるのが怖いのだ。監督は『バイス』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ。彼が描いたこのコメディー・ドラマの怖さを堪能したい。これこそが今の時代だからできる、ネットフリックスだからこそ可能な「お正月大作映画」なのだろう。ぜひ、自分の目で確かめてもらいたい。


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