こんなやつどこにもいないだろう。いくらなんでも異常すぎる。大学入学後からすぐ就活を初めて、就活が人生の目的で、そのためだけに生きている大学3年生。入学以来ずっとビジネススーツで学校に来て、なんと寝巻もスーツだ。いつどんなタイミングで企業の人と会う機会があるかわからないから、らしい。(そんなのキャンパスではないと思うけど。)言葉も誰に対しても敬語を使う。普段から面接対応が可能なように、ということらしい。成績は校内でトップ。特待生として授業料免除だけではなく、毎月学校から10万円の補助が出ている。そんな彼がもうすぐ50歳になる新入生(というか、聴講生だけど)と出会い、人生を変えさせれる。
読み始めは、単純に就活のお話だと思っていたけど、そんな生易しいものではなかった。わけのわからない展開に振り回されることになる。どこにたどり着くのやら、想像もつかない。自由人のおじさん(さっき書いた新入生ね)に振り回され、彼がどこにたどりつくことになるのか、予断を許せない。確かに帯での紹介通り「未来に迷い、日々に戸惑う大学生の就活戦線を描く青春エンタメ小説」なのだろうけど、想像を大きく逸脱する展開におろおろする。
『本のエンドロール』の安藤祐介作品だからと、読み始めたのだが、あの小説とはまるでタッチが違いそこにも驚く。あの小説にも確かに驚かされた。印刷会社を舞台にして1冊の本ができるまでのドラマを小説にするなんて誰も考えなかったことだろう。アイデアが斬新で、今まで見たこともない世界をさりげなく見せてくれるところは今回も同じだけど、同一人物が書いたとは思えない。今回のこの軽さはなんなんだ、と思う。
でも、軽いだけではなく、主人公のキャラクター設定は異常すぎる。でも、そこがこの作品の凄さだろう。こんな男がどういうふうに生きていくのか気になり、一気読みさせられた。タイトルですでに結果(就活の失敗)は示されているのだけど、それをどういう形にして描くのか、それが納得できるのか、気になる。こんな異常な男の顛末を知りたいという興味本位でもある。
おじさんと出会い、生き方を変えさせられるのか、とも思ったが。そんな生易しいものではなかった。彼が今まで培ってきたものをそんな簡単に易々と捨て去れるわけもない。後半すこしつらくなる。しかも、終盤ではおじさんまでいなくなる。作者の予定通り、終活に失敗して、惨めな姿になる。ここまで読んだとき、なんだか彼がかわいそうでなんとかしてよ、と思う始末だ。彼の調子よい生き方をありえないと、ドン引きしていたはずなのだが。
正直言うとラストの展開は少し甘いし、期待以上ではない。だって想像もつかない世界をそこまでは描いていたのに、最後は想定の範囲内の出来事で締めるのだもの。だけど、よくもまぁこういう小説を書いたものだ、という驚きはある。就活が人生のすべてなら、希望の会社に入社した瞬間で人生は終わるはずだ。でも、誰もが知っていることだけど、人生はそこから本格的に始まる。就職はゴールではなくただのスタート地点に過ぎない。そこに立った時、そのことを彼はどう受け止めたのか、それを聞きたいけどそれは描かれないのは残念。