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映画・演劇のレビュー

『関心領域』

2024-06-05 12:35:00 | 映画

『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(あまり趣味は良くないホラー)のジョナサン・グレイザー監督作品。昨年のカンヌでのグランプリに引き続き、第96回アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞して鳴り物入りで日本公開される。

期待した以上の映画だった。こんなにも大胆な映画だとは思いもしなかった。禁欲的で、抑えた描写が延々と続く。それが無理矢理ではなく、自然体。彼ら家族にとってはこれが当たり前の日常なのだ。幸せな日々が当たり前に続くはずだった。だけど、夫の転勤で家族の平和は崩される。

と、いうストーリーなのだが、ここはアウシュビッツである。あの収容所の隣。彼らの暮らしはユダヤ人の苦しみの真横にある。収容所の所長一家の日常を淡々としたタッチで綴る。夫は毎日隣に出勤して仕事が終わったら帰ってくる。妻は子供たちを学校に見送り、穏やかな一日を過ごす。たくさんの使用人を抱えて優雅な暮らしを満喫している。何の不満も不安もない。やがて戦争は終わりドイツが勝つ、はず。

戦争に対して、ユダヤ人虐殺に対して、何かを語るわけではない。全編不気味なまでに何も言わない。収容施設の煙突からは黒い煙が上がっているが。

ただラストで主人公は嘔吐する。それだけ。同時に現在のアウシュビッツ収容所の展示室の様子が映される。観光客の帰った後の掃除の風景として。

確かにこれは傑作である。ただ、何の予備知識もなくなんとなく見たらこれが何の映画なのかもわからないという人もいるだろう。まぁそれはそれで仕方ないけど。



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