第10回公演となる。区切りの1作。でも、ことさらそこを前面に出さない。チラシには書かれてなかったし。(当日パンフのアンケートを見て知った)安心して見ていられる。2時間の至福の時間だ。「音楽」と「物語」。その二つの融合する世界。変わらないスタイル。その中でいつも新しい世界紡がれていく。シンプルで、ストレート。でも、だからこそ、こんなにも心に沁みる。胸に届く。石井さんが心がけるのは、バランスだ。ふたつがバラバラになることがないように、硬く結ばれるように。
これは小さな村の学校から始まるファシズムのお話。ヒトウラ校長がヒトラーとなり、独裁政治を行う。そんなふうにわかりやすい。結婚式から始まる。科学者のヨルジロウと歌い手のアサコが結ばれる。それをみんなが祝福する。やがて、かわいい赤ちゃんが生まれる。そんな双子の姉弟、ユキとハクの幸せな生活がテロによって破壊される。息子を失った父は息子そのままのロボットを作る。(鉄腕アトム!)彼が自分の意思を持ち、人と心を通わせる。
お話自身は陳腐かもしれない。しかし、大事なことがここにはちゃんと描かれる。これは寓話である。そして、おとぎ話だ。人と人との心の物語。だから、そこには複雑なお話は不要だ。本質だけを丁寧に描くといい。そのために音楽と物語がある。石井さんのなかで、ふたつはどちらかに奉仕するためのものではない。等価にある。今までも、そうだったし、これからもきっとそうだろう。確信を持って自分のスタイルに邁進している。たまたま、10回公演の節目にあたってそのことを改めて再確認させるそんな作品が生まれた。もとろん、そこには石井さんの覚悟がある。それだけの強い意志に裏付けられた傑作である。