作品はとても小さなお話としてまとまってある。それでいい。このお話を大々的なメッセージで押し出すと、つまらなくなる。ささやかなお話でいいのだ。彼ら4人が体験したある日のできごと。戦時下、海軍省の一室を舞台にして、2人の津軽出身の男女と、2人の沖縄出身の男が、訳もわからないまま寄せ集められて、秘密の作戦に従事させられる。何のために、どういう理由で選ばれたのかもわからないまま、ここに連れてこられて、不安と恐怖にさらされる。
暗号となる方言を巡るやりとり。全く接点もない彼らが、言われるままどうされるのかもわからずここで過ごす時間が描かれていく。1時間10分という短い芝居には余計なものは一切ない。でも、緩やかな緊張の持続の中で、作品世界を必要以上広げることなく、過不足なくドラマは繰り広げられる。民間人である4人はひとりひとりの個性をきちんと描き分けながら、対峙する個性を持たない軍の面々との、対比の中で、ある作戦が遂行されていく。ミステリとして、あるいは戦時下の秘話として、もっと作品世界を広げることなら十分可能だった。だが敢えてそうはしない。意図したものがどこにあったのかは定かではないけど、この密室の中だけで完結するのは心地よい。
全く違う世界で暮らしてきた4人が(2人2人はそれぞれ同じ村出身だけど知り合いではなかった)たまたま出会い、別れていく。何故自分たちがここに集められ、何に利用され、この後どこに連れて行かれるのか、そんなことは一切わからないまま。でも、今はここにいて言われるまま過ごすしかない。この時間は彼らにとってどんなものになるのか。それすらわからないまま、過ごす時間。そのことを通して彼らの中でほんの少し何かが変わっていく。それだけでいい。演出の山内さんは欲張らない。この物語から発せられるメッセージよりも、彼らの息使い、瞬間瞬間の想い、そちらのほうを大事にする。そんな間尺にあった心地よさ。それをこの芝居は実現する。