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映画・演劇のレビュー

藤野恵美『雲をつかむ少女』

2015-05-11 19:42:29 | その他
なんだかよくわからないけど、このGW毎日1冊ずつ本を読んでいる。いずれもなかなか面白い。実はその理由ははっきりしている。クラブの試合の付き添いで毎日8時間ほど体育館にいるからだ。試合の待ち時間、暇だから本を読む。ただ、場所もないし、人も多いし、しんどいし、なかなか読みにくい。しかも、集中して読んでいると、気付くと次の試合が始まっていたりする。あせる。毎年GWウィークはずっとそうだ。(お盆もそうだ。こんなことしているから、何も出来ない。)

そんな中読んだ本の中でも、この小さな小説は一番心に沁みた。児童書のコーナーでたまたま見つけた本だ。もちろん藤野さんの作品は好きだ。(そんなにたくさん読んだわけではないけど、前作の『初恋料理教室』も、とてもよかった)今回彼女が取り上げたのは、インターネットだ。8話からなる連作はロンド形式で、最後にすべてがつながる。8人のお話はいずれもネットとの関わりを描いたお話だ。

中学生の結衣の話からスタートする。僕はスマートフォンも持たないし、ネットもほとんど見ない。SNSってなんですか、という人間だ。超アナログ人間だ。もちろんラインもしないし、フェイスブックもミクシィも知らない。だから、彼女のような苦しみはわからないけど、想像は出来る。いまどきの子供じゃなくてよかった、と思う。僕は別の人とつながりたいとは、思わない。仕事をして、好きな本を読んで、映画を見て、芝居を見れたなら、十分だ。仕事でパソコンは使わなくてはならないけど、機械は苦手なので出来るだけ、避けている。今の時代に子供だったなら、必ず仲間はずれにされ、いじめに合うことだろう。

ここにはゲームにはまる小学生の話(虎太郎)もあるけど、ゲームなんてのも絶対にしない。嫌いだ、というか、苦手だ。でも、ここに描かれるお話は身に沁みる。彼らの痛みはよくわかる。いずれのお話も、切実な問題として、さまざまな角度からネットとリアルの関係を描く。小学生から大人まで。彼らが感じる出来事のひとつひとつが今という時代を生きることの困難と背中合わせなのだ。

ネットはとても便利だし、世界とつながることもできる。だが、それは現実ではない。膨大な情報は人を惑わせる。しかもそれが安易に手に入ると、そのもの自体の大切さが損なわれる。便利な世の中になった。でも、そのせいで、いろんなものが失われる。

この小さな小説は、そこで生じるひとりひとりのささやかな問題と向き合うことで、僕たちにとって本当に必要なものは何なのかを伝える。最後のエピソードは、ひきこもりの少年が家を出て、アメリカまで旅をする話だ。彼は家を出ないだけではなく、ネットの世界でひきこもっていた。だが、そこで様々な人たちと出会い、ここを出る決意をする。

小さな話の中に大事なものが満載されている。いろんなことを考えさせられる、これはそんな小説だ。子供だけではなく大人にも読んでもらいたい。


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