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映画・演劇のレビュー

『星の子』

2020-10-12 21:53:07 | 映画

とても微妙な映画だ。特別な出来事は何もない。14歳の少女の心の揺らぎだけが丁寧に描かれていく。だけど、芦田愛菜から目が離せない。だけど、それが大きなドラマにはならないから、映画としてはなんだかもどかしい。こんなにも何もないお話で1本の映画が成立する。だからといってこれは愛菜ちゃんの一人芝居ではない。大森立嗣監督は日常の描写から彼女の内面の葛藤を丁寧に掬い取る。怪しげな宗教に嵌ってしまい、信じることで生きていく両親を持つ。彼女が幼い頃、この宗教団体の与えてくれる水を通して彼女の病気が治癒したことで、この命の水を信じるようになった。だから、彼女も今もこの水を飲んでいる。夫婦の怪しげな儀式だって、自分のためだから、と思う。でも、彼女はそこまでは信じられない。両親に対して少し距離を置く。

ラストは宗教団体の宿泊研修に行くエピソードだ。この家族が毎年行っている恒例行事だ。そこには友だちもいる。同じようにこの宗教を信じてる人たちの子供たちだ。そこで両親と夜空を見るラストシーンが、また微妙だ。こんなところで、それだけで映画が終わってしまっていいのか、とも思う。でも、これはそういう映画なのだ。永瀬正敏と原田知世演じる両親がなんとも言えない雰囲気を漂わせる。

普通なのだ。あまりに普通で、異常なほど。映画は淡々としたタッチで彼らの暮らす日々を描いていく。少女の先生に寄せる恋心や友だちとのやりとり。そんななんでもない日常描写の数々が綴られていく。先生に対する想いが暴走していく終盤。両親の儀式をしている姿を先生に見られて、ショックを受けるシーンから、先生の前で泣くシーンまで。信じることの意味を問う、なんていう映画ではない。ただただ彼女の心の揺らぎを描くだけ。それだけの映画なのに、それがこんなにもいい。


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