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映画・演劇のレビュー

大阪新撰組『さかさま動物園』

2010-05-02 18:51:00 | 演劇
 このかわいらしいタイトルとは裏腹のドロドロした人間関係が描かれているのに驚かされる。白で統一された動物園の空間を舞台にして、6人の男女による愛憎劇が描かれる。これは南陽子さんの手による書き下ろしの新作を、楢三蔵さんが脚色、演出した新撰組の新作だ。

 とてもおもしろい題材だと思う。これだけ複雑で、濃密な人間関係を、こんなにもさらりとしたタッチで見せていくことに感心した。しかも、新撰組のいつものタッチは健在なままである。楢さんの演出はとても丁寧で、几帳面だ。本人の人柄を偲ばせる。台本の伝えようとするものを、きちんと掬い取ろうとしている。しかし、台本の方がこの物語をきちんと語り切れていないから、シーン、シーンのおもしろさ、イメージのみが先行してしまい、全体がバラバラな印象を残す。6人の男女の関係性も伝わりきらないまま、話が進行するので、緊張感が持続できない。しかも、台本の持つ世界観を形にするだけのメリハリがないので、散漫な印象を残す作品になった。

 この作品に登場する6人それぞれが抱える痛みが観客の胸にまではとどかないままで自家撞着してしまう。作者一人が納得しても、それでは芝居として成立しない。十二分な可能性を秘めた作品だけに、残念だ。

 白と黒で統一されたシンプルだけど手の込んだ舞台装置(ココロ)はすばらしい。客席が動物園の檻となっていて、動物園にやってきた6人の男女が檻の中にいる動物たち(それは僕たち観客だが)を見る、という状況の逆転も(劇場に入った瞬間に解ることだが)悪くはない。


 動物園の園長と彼らの関係がもう少し書き込まれてもいい。女3人、男3人を別々の所に置き、そこから話を始めることや、それぞれ別々に内面を語らせることで、ラストにつなげていくという構成も悪くはない。それだけに、話が観念的になりすぎたのが惜しまれる。


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