習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『川の底からこんにちは』

2010-07-29 22:01:43 | 映画
「私は中の下の女だから」と開き直るヒロインに共感ができない。その違和感がこの映画を引っ張っていく。

 まだ23歳の女が、自分のことをこんなにも安く見ていいのか、と思う。(しかも演じるのはあの満島ひかりである!)18歳でつまらない男でしかないテニス部の先輩と駆け落ちして東京にやってきた。男には1カ月で棄てられ、それから5年。ずっと最悪な毎日を生きてきた彼女は卑屈になるのではなく、今ある現実を等身大に受け入れる。

 5人目の男はバツイチの子連れで冴えない中年男。この程度の男が自分にはお似合いだ、と思う。父が倒れてしまって、実家であるしじみ工場の跡継ぎをしなければならなくなる。5年間一度も実家には帰らなかったし、唯一の家族である父にも会っていない。気まずい。でも、しかたないから戻る。しじみ工場の従業員たちは彼女に対して冷たい。だいたいこの工場自身このままではあと数ヶ月で倒産する。まるでいいことがない。人生どんづまり。そんな彼女が「もう頑張るしかないでしょ」と思う。

 家に帰ると麒麟淡麗を何本もグビグビ飲んでグタグタになっている。だらしない。そんな満島ひかりの肉体を通して(このとても美しい女性によって)どうしようもないルーズさが自分を中の下の女にしてしまうという不条理をリアルに体現する。自分に対する自信のなさは、時に彼女のように美しい女からも輝きを失わせることがある、という事実をある種のリアルさをもって描くところにこの映画のすごさがあるのだろう。現在の日本映画界を代表するこの美少女アクターに自然体で、こんな役を演じさせ、どん底をヘラヘラ笑ってすごさせるという離れ業を石井裕也監督は成し遂げさせ、彼女の単独主演第1作を成功させた。

 映画はとても特異なテイストを提示する。おもしろいと言えば確かにおもしろいのだが、なんとも微妙だ。だがそんなところも含めてこの映画を認める。今までの石井裕也監督の独りよがりスレスレの世界からは完全に脱皮している。

 だが、難を言えば、どうしようもなくダメな中年男の恋人を演じた遠藤雅にまるで魅力が無く、彼女が彼とくっついてしまう理由がわかならいところは気に入らない。いくら自分を見下していたとしても、23歳の女性がこんなつまらない男に心惹かれるわけがない。キャラクターの設定をもう少し明確にして、この男の子供っぽさがある種の魅力にも映るように作ってあったなら説得力が持てたのではないか。そうすると、再び帰ってきたこの男を許すだけでなく彼との結婚を決意するというラストも感動的になっただろう。

 男が出ていった後、全く心を開かないこの男の娘と2人きりになり「あんたも私と同じ中の下の女なんだから」と言い放ち、2人で開き直るという展開はすばらしい。結果的にはこの幼い少女との交流が、この映画の最大の見所になっていく。4,5歳のこどもに対して、「中の下の女だ」と言い放つ満島はすごい。そこから2人が本当の意味で初めて生き始める。しじみ工場のおばさんたちも本気の彼女に心を開き、工場が活気を取り戻していく、というおきまりの展開が、嘘くさくなく、こんなにも気満ちよく伝わってくるのもすばらしい。



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