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映画・演劇のレビュー

『ブルージェイ』

2022-05-05 10:38:00 | 映画

監督はアレックス・レーマン。全く知らない人だ。調べるとこの映画の後で『パドルトン』(2019)という作品を作っている。もちろん日本では未公開だ。さらにこの作品の前に『アスペルガーザらス』(2016)というドキュメンタリー映画でデビューしている。2作ともネットフリックスで見れるようだ。

たまたまである。この地味なモノクロ映画を見たのは。1時間20分の映画で、登場人物はふたりだけ。昔2人がよく通った店(酒屋だけど)の老人が一瞬登場するけど、ほかには背景で何人かが映るけどそれだけ。『ブルージェイ』というのは「青い鳥」のことで、彼らが昔よく行った映画館(喫茶店かも)の名前でもある。高校時代、付き合っていたふたりが20数年ぶりで再会する。たまたまスーパーで。ふたりとも生まれ育った故郷の町を離れていたけど、たまたま戻ってきた時に偶然出会えた。奇跡的な再会だ。だから、名残惜しく、お茶に行く。さらには懐かしい彼の実家にも行く。そこで過ごす1日の物語。

彼は仕事と母親を失くし、母の遺品整理と実家の処分のために戻ってきていた。失業し、唯一の身寄りである(独身で結婚はしていない)母を亡くし、これから先のことを思い、茫然としていた。そんな時、大好きだった彼女が現れたのだ。彼女は妊娠した妹の世話をするため、しばらく滞在するために戻ってきた。ちょうど今日着いたばかりで、妹から買い物を頼まれてここに来た。今では結婚してふたりの子供もいる。しかもふたりとももう大学生で、あと少しで完全に手が離れ夫婦二人になる。

懐かしい恋人と再会し、まるであの頃に戻ったようにたわいない会話をして、過ごす時間はとても楽しい。昔何度となく行っていた彼の家に行き、懐かしい思い出に耽る。なんだか開放的な気分になり、夜が更けても、帰れない。

翌朝の別れまでの時間が描かれる。やがて、ふたりの過去が明らかになる。高校生だった彼女の妊娠、堕胎を経てのお決まりのような別れ。でも、彼は今も彼女が忘れられない。彼女もまた。と、こういうふうに書くと、よくあるパターンだが、(どこにでもありそうで、他人にすれば陳腐な恋愛物語)本人たちにとってはかけがえのない、大切な青春時代の痛ましい、切ないお話だ。

うつ病で5年間、泣けなくなっていた彼女が涙を流すラストまで、映画は感傷過多に陥ることもなく、適度な距離感を保ちつつ、ふたりの1日を見守る。アメリカ映画なのに、こんなつつましい映画を作るのか、となんだか不思議な気分になる。モノクロ映像が美しい。田舎の優しい風景が胸に沁みる。これらはすべてアレックス・レーマンという作家の姿勢なのだろう。今までこんなタイプのアメリカ映画を(ほとんど)見たことがない。


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