サブタイトルには「近松門左衛門半生記」とあるけど、真正面から近松を描いたわけではない。無名劇団の劇作家が近松を主人公にした戯曲を作る話だ。それをコメディタッチで見せていく。現代のお話の中に劇中劇として、入れ子構造で近松の物語が描かれていく。その対比から近松門左衛門という男の半生が描かれ、それが無名の若い劇作家の生き方とシンクロしてくる、というのがこの手の作品のパターンなのだが、彼と近松を重ね合わせることなく、現代のシーンは導入のエピソード程度にしか機能しないから、緊張感は生まれない。
どうしてもこの台本で上演にこぎつけたい、という彼の想い。それを劇団員たちが支える。だが、頑固なワンマン座長は納得しない。座長は「曽根崎心中」を喜劇仕立てにするというバカバカしいアイデアに取りつかれている。若い座付き作家は近松の半生を描く。近松と彼が重なり合うと同時に、座長を要冷蔵が近松と二役で演じることで、彼が乗り越えるべき目標として君臨する。2つの世界がシンクロしながら、どこに向かうことになるのか。そこが興味の焦点となるのだけど、現代のシーンに比重が置かれないから、全体のバランスが悪くなった。
ふたつの世界とふたりの劇作家の世界は融合し、近松の世界が形作られていく。ねらいは明確で、面白いのだけど、全体の詰めが甘いから、中途半端な作品に仕上がったのが残念だ。