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映画・演劇のレビュー

劇団大阪『獏のゆりかご』

2016-06-16 21:23:53 | 演劇

 

今回、劇団大阪は青木豪の作品を取り上げた。いつも挑戦的な試みをするこの劇団らしい試みだ。だが、こういうメリハリのないお話を芝居として立ち上げるのはとても難しい。しかも常連である年配のお客さんはこの手に作品に対して拒否感を示す可能性も高いことだろう。だからこれはベテラン劇団としてはあまりしたくないリスクの大きな芝居なのではないか。

 

だが、敢えてそういうタイプの作品にもチャレンジするのがこの老舗劇団の凄いところだ。しかも、今回演出を外部に依頼した。たくさん演出家を抱える劇団大阪が本公演で外部指導者を招聘した意義は大きい。キャストも若手を中心にした。これはかなりの冒険だ。もちろん、ベテランがちゃんと周囲を固める。それは失敗を恐れて、ではない。彼らにも外部演出家の指導をちゃんと体験してもらおうという意図からだ。

 

兵庫県立ピッコロ劇団から岡田力さんを迎えた。残念ながら僕は、彼がどんな演出家であるのかは知らない。だが、出来あがったこの作品からは彼の誠実さがしっかり伝わってくる。いい演出家を選んだ。

 

芝居自体は先にも書いたようにドラマチックとは程遠いものだ。お話にも起伏はない。淡々としたドラマが展開する。地方の小さな公立動物園での人間模様が描かれる。市の予算削減のあおりを食らって職員の縮小、さらには閉鎖すら視野に入る状況下にある。でも、職員たちは今、今日をなんとか乗り切るために一生懸命だ。今日は重大なイベントがある。マレーバクのユメゾーくんの誕生日を祝う。その準備でスタッフはてんてこまい。借りてきた着ぐるみを巡るドタバタで話は始まる。そこに、謎の訪問者やら、いつものクレイマーやらもやってくる。と、ストーリー自体はなんでもないお話だ。要するに、書くまでもない。

 

ここにはそれぞれが不安を抱えながら、この瞬間を誠実に生きていこうとする姿が描かれる。それを先にも書いたように、演出の岡田さんもまた「誠実に」描く。きっと役者とのコミュニケーションを大事にして、丁寧に作り上げたのではないか。どういう経緯からこの仕事が彼に委ねられたのかはわからないけど、僕たち観客にとっては出来あがった作品がすべてだ。100分間とても居心地のいい芝居だった。

 

ここには、どこにでもある日常がある。職場の緩やかな確執を、さりげない会話から綴っていく。客演として参加したモンキーレンチのはるやまなかおさんも含めて芝居の中には不在の獏の所在を中心にして、職員たちの違和感と共感がうまくブレンドされてある。いい作品になった。


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