アマゾン・プライムの扱うマイナーな日本映画のラインナップは凄い。こんな映画が入っているのか、と驚くことも多々ある。それよりなにより、そこにはまるで知らなかった自主制作のような映画まであるのだ。さすがにその全部を見ることはできないし、あまりに出来の悪い映画まで入っているから、慎重に選ぶ。貴重な時間を無駄にはしたくないからね。あたりまえの話だが、この世の中にはたくさんの映画がある。僕たち(もちろん映画評論家も含めて)が知らないだけで、すごい作品が埋もれている可能性もある。
これは2019年のぴあフィルムフェスティバル(なんともう第40回になるらしい)でグランプリを受賞した作品だ。監督の工藤梨穂は受賞時、弱冠22歳。京都造形大の卒業制作か何かであろう。89分の長編である。彼女はもうすぐ大阪でも公開されるスカラシップ作品『裸足で鳴らしてみせろ』でメジャーデビューを果たしている、なんてことも知らないまま見始めた。
何なんだ、これは、というふうに思うしかない自分勝手な映画だ。まるで説明がないから何が何だかわからない。わからないままでどんどん見ていくことになる。きっとそのうちちゃんとしたフォローがあると信じて。でも、そんな甘えは粉砕される。最後まで何の説明もないまま、終わる。正直言うと後半さすがに疲れてきた。どういうつもりなのか、と作り手の神経を疑う。独りよがりもたいがいにせいよ、と思う人だっているはずだ。こんなわがままな映画をグランプリに選んでスカラシップでメジャーデビューさせていいのか、と心配になる。
つまらない、とは思わない。だけど、観客をまるで相手にしていないのは傲慢だ。主人公は徐々に記憶を失う病に罹かっているようだ。友人のヤンから届いた手紙。そこには象の絵が描かれている。彼女は消印を辿ってヤンを探す旅に出るひと夏の日々の物語。旅の途中でなぜかいきなり幼馴染のバンが(恋人の彼女と一緒に)出てきて、実はバンは逃亡中で、タヒチに高跳びするはずだったが、ヤクザに見つかり、ふたりは彼女とともにヤンを探す旅に出る。話の展開が行き当たりばったりで、よくわからない。ヤンのいた民宿にたどり着いたところからの展開もそうだ。ヤンとバン、そして彼女。3人の関係や彼女の病気のこと、ヤンの死。描かれることが断片的で全体像が見えてこないまま映画は終わっていく。
こんなのありか、と思う。だがこのあてのない旅とその終わりを描くスケッチのような映画を見ている90分間はなぜだかわからないけど、穏やかな気分になれた。こんな映画なのにあまり腹は立たない。(驚いたけど)何が何だかわからないけど、夏の日、だらだらと旅をして、何も起こらないで、でもやはりヤンは死んだのか、というその事実だけが残り、でも、彼女はそんなことも忘れてしまうのだな、と思い、なんだか切ない。いろんなものが忘却の海に沈んでいく。でも、それはそれでありかもしれないと、なんだか優しい気分になる。なんとも不思議な映画だ。