久しぶりの金蘭座公演だが、これは以前のメンバーでの公演ではなく、この7、8年前の金蘭会高校のメンバーが立ち上げた企画。演出はもちろん山本篤先生。勇退されてから初めての芝居になる。2部構成、休憩の10分を挟んで2時間40分の大作だ。宮藤官九郎によるオヤジたちの話である台本を金蘭だから女の子たちで演じた。
山本先生はこの台本を金蘭テイストに仕立てて、見事に自家薬籠中のモノにしている。冒頭のキオスク3人組のシーンで楽しませて、一気に作品世界に引き込む。今までのキンラン演劇のメソッドを使って壮大なスペクタクルを踏まえた(その積み重ねの)上で、敢えて小劇場演劇ならではの小さな緊密なドラマを提示する。1stという小さな空間で場末のホストクラブというしみったれた場所に彼女たちを閉じ込めて、繰り返し蘇ってくる不死身の男と彼を殺し続けるかつての同級生、今ここにいるホステスの女たちの戸惑い、苛立ちを見せていく。
週刊誌の編集者、静は、田舎のホストクラブなのに男がいないそのは店に行き、行方不明になった作家凸川の消息を尋ねる。そこで出会った男女が語る凹川(凸川だけど)は彼女が知っている彼とは違う存在で、やがて彼女は迷宮に嵌り込む。凹凸のどちらでもいい。彼はひとりのはずなのにひとりではない。「まだ、やってる?」と笑顔でやって来て周りを震撼させる彼の姿。殺しても殺しても死なない鈍い獣のような男。
メインキャスト6人のアンサンブルプレーが秀逸だ。そこに(彼女たちに混ざって)何故かところどころに出没する明(唯一の男性キャスト)が可笑しい。
これはある種のホラーである。忘れたはずの過去の記憶が襲ってくる。今の自分たちを追い詰めていく。25年前の呪縛から逃れるために殺す。今不在の彼を探してこんなところまで来た静は自分以上に彼の亡霊に取り憑かれた男女と出会い茫然とするしかない。山本先生とキンラン演劇の新しいスタートを飾る傑作である。