習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

ゲキバコ!『ねことけんじゅう』

2009-04-19 19:41:07 | 演劇
 閉ざされた空間の中に2人の男女。1匹の猫。雨の夜。戦争の足音。このシチュエーションの中で、緊張感をどこまで持続できるのか。それが今回の課題だ。お話を見せるのではなく、状況を提示し、そこで生じる緊迫したドラマを見せる。2人の関係性を説明しない。不要だ。ちょっと考えればそんなこといくらでも察することは充分可能だからだ。

 身分違いの男と女。女は1匹の猫のために男に身を任そうとする。男はギリギリのところで、「冗談だよ」と切り返す。彼女への想いが溢れる。だが、彼女への想いが思いとどまらせる。それを説明では見せない。好きだから、ではなく本能が行為にストップをかける。2人の関係性を表面的な次元でしか描かないのは、それ以上見せてしまうとただのお話に堕してしまうからだ。情報量は出来るだけ少ない方がいい。生身の肉体がぶつかり合うことで生じるものを切り取っていこうとする。

 40分1本勝負。構成、演出の吉野圭一さんは芥川龍之介の原作(『お富の貞操』)の設定だけを使ったようだ。原作の短編小説を読んでいないから詳しいことはわからないが、賢明な判断だ。エモーショナルな衝動を作品の核に据えて、物語性を極力排除するという試みはこの芝居を想像以上におもしろいものにした。ゲキバコが昨年の太宰治に続いて挑戦したアトリエでの実験公演は最高の成果をあげた。狭い空間を活かし、逃げ場のないスペースで会話をとことん切り詰めて、状況のみを提示する。主役の2人は演出の期待に見事応える。櫟原将宏さんは男の追い詰められた心情を静かに見せる。堺のぞみさんは女を自然体で凛としたたたずまいで見せる。次週は男を甘いマスクのオリゴ党の恒川良太郎さんが演じる。全然タイプが違う2人でダブルキャストを組んでいる。こちらもぜひ見てみたい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ジェリー・フィッシュ』 | トップ | D3(ディーキューブ)『さ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。