これはとても寂しい映画だ。孤独な少年が新しい場所で、ぽつんとひとり佇む。冒頭のランニングシーンから、競馬場にたどり着き、そこで仕事を貰うまでがいい。映画は彼をただ追いかけるだけ。なんの説明もない。だけど、それだけから、彼が置かれている状況はわかる。この無骨な見せ方が心地よい。甘い映画ではないけど。ただ少年に寄り添い、なんの感想も言わない。ただ、一緒にいるだけ。やがて事故で死んでしまう馬のように。僕たちは彼がどこに行き、何をしたのかを見守るだけ。無力だ。でも、彼に寄り添い、彼と同じ風景を見、行動することで、彼が愛おしくなる。監督の視線と同じ視線で彼らを見ていく。
その寂しさと向き合い、やがて、たどりつくその先にはささやかな希望はある。これはその小さな希望への旅なのだ。それだけで十分だ。優しい伯母さんのところにたどりつくまで。『母を訪ねて三千里』みたいな映画だ。でも、ハートウォーミングの甘っちょろい映画ではない。
少年がたったひとりになる。父親が死に天涯孤独になった彼と、殺処分にされる競馬馬。彼は馬を連れて、旅に出る。僕たちはそんな彼らを見守るだけ。いろんな人たちと出会う。だけど、彼は誰にも心開かない。甘えない。最後まで泣かない。彼の強さと、寂しさ。言葉には一切しないけど、いろんなことから耐えている彼の想いは伝わってくる。アンドリュ-・ヘイ監督は,お涙頂戴に成りかねないこの作品をクールなタッチで貫きながら、でも、その視線は暖かい。表面的には主人公はハッピーエンドを迎えているが,必ずしむそうではないことは明白だ。お話の表層だけをたどるとこの映画の本質には届かない。荒野を行くシーンよりも町を行くシーンのほうが荒涼としている。映画の終盤、馬はあっけなく自動車にはねられ死んでいくのだが、そこが映画のクライマックスではない。これは阻害された者同士である馬と少年の友情物語なんかではないのだ。この少年の絶対的な孤独は誰にも癒やされることはない。