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映画・演劇のレビュー

『her  世界でひとつの彼女』

2014-07-22 20:56:32 | 映画
 スパイク・ジョーンズが今回放つのは、なんとも切ないラブストーリー。だが、彼が恋する相手は、人間ではない。コンピュータだ。彼女の声だけで、この切ない愛の物語は綴られていく。そんなことになるなんて彼だって夢にも思わなかった。声だけでコミュニケーション出来る人工知能とのやり取りを通して、彼は彼女を好きになる。

 彼が好きになったのは、生身の肉体を持つ女性ではなく、ただの音声だ。だが、日々進化していく彼女は、彼にとって最高のパートナーとなる。必要だったのは、肉体の接触ではない。本当の自分を理解してくれ、愛してくれる存在だ。そんな当たり前のことを丁寧に描いてくれる。やがてくる別れは、彼女がコンピュータという「世界」であることに起因する。そこもまた切ない。人間という不完全な存在とコンピュータという完全に限りなく近づく存在の微妙な差。でも、それって人間関係の中でも生じる祖語と同じだ。愛し合っているのに、別れなくてはならなくなることはある。だからこれを特別とは思わない。そうじゃないから、この作品に共鳴する。自分たちの恋愛はほかの人たちのつまらない恋愛とは違う。世界でたったひとつの「特別」なのだ。なんだかますます切ない。誰もがそんなふうにして自分を生きているだろうと、思い至る。

 初めに言葉ありき。過剰な期待は一切しない。ただ、自然に言葉を交わしあった。やがてそれが恋になった。いとしさとせつなさのなか、やがてくる別れに立ちすくむ。こんなにも純粋に誰かを愛したことがあるか。見返りなんか期待しない。ただひたすら彼女を想う。実態のない彼女だからこそ、果てしなくその想いはつのる。


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