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映画・演劇のレビュー

『ウォルト・ディズニーの約束』

2016-07-25 23:50:53 | 映画

 

いやな女の話だ。できることならこんな偏屈な女とは関わり合いたくない。なのに、ウォルトは彼女に20年間もオファーをし続けた。そして、ようやく念願が叶い、彼女をロスまで呼ぶことに成功した。もうこれで大丈夫だ、と彼は信じたはずだ。だが、甘い。それはまだ、始まりに過ぎなかったのだ。でも、こんな面倒な女を投げ出すことなく、彼と彼のスタッフは受け入れた。さぁ、どうする? 

 

ディズニー映画である。だが、これは夢と憧れのお話ではない。過酷で理不尽なお話だ。ひとりの少女を救うということは、これほどに過酷で困難なことなのだ。少女は大人になり『メリーポピンズ』を書いた。娘に勧められその本を読んだウォルトは、この本に魅了される。だからこれを映画化したいと思った。それは娘との約束でもある。これは2組の父と娘のお話だ。原題は彼女の父親バンクス氏(Saving Mr. Banksから。邦題はウォルトから。

 

最初に書いたように頑なで嫌な女、トラヴァース夫人(エマ・トンプソン)が、心を開いていくまでのドラマ、だと思うと、痛い目に合う。彼女はそんな簡単な女ではない。ウォルト・ディズニーはそんな彼女に手を焼く。しかし、諦めない。『メリーポピンズ』の魅力は棄て難い。世界中の子供たちにこのお話を映画として届けたい、と思う。トム・ハンクスはディズニーを子供の心を持ったまま大人になった人としては演じない。そんなのは若い頃『ビッグ』で演っている。だが、もちろん、成功した実業家で、大金持ちの鼻もちならない男でもない。

 

ディズニーは、彼女を見守る。彼女のわがままを受け入れるだけではなく、彼女を知ろうとする。彼女に寄り添い、彼女の秘密を解き明かす。映画は、ゆっくりと、彼女がどんな人生を送ったのかを、描く。ひたすら父親を愛したひとりの少女を、見守る。彼女にとって父親はヒーローだった。弱い男で、酒に溺れて、やがて死んでいく。でも、彼は娘たちを、そして妻を心から愛した。仕事が上手くいかず、でも、家族のために我慢して働く。銀行員という仕事は彼には合わない。しかし、何度となく仕事を首になってきた彼にとって、もう後はない。

 

父の死までを描いた時、すべてが上手く収まるわけではない。それどころか、彼女はハリウッドを去る。結局は、どこまでも手に負えない女なのだ。さぁ、どうなる?

 

実に上手い終わらせ方で、唸らされた。瀬尾まいこの『春、戻る』と同じように、ちゃんと、ラストが作品全体を締める。今さらだけど、関大一高の芝居に欲しかったのは、こういう落とし所なのである。


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