Huluによる8話からなる短編連作配信映画。中川龍太郎監督作品。(脚本は高田亮との共作)舞台は2020年春、川崎、多摩川地区。そこでのコロナ禍の人々のスケッチを切り取り、最後は2021年の秋、近未来につながる。とりあえずコロナが終息した後が描かれる最後のエピソードまで。ささやかな人々の営みが、丁寧に切り取られていく。
ただ、仕方ないことだが、マスクの扱いとか、少しリアリティのない描写もあり、お話に乗り切れなくなる部分も多々あるのは残念だけど、作品全体に関しては基本的には納得する。そんな中でも作品の核となる5,6話、夫婦の齟齬を描くエピソードが素晴らしい。リモートによる在宅勤務になり、終日家にいる夫婦の日々の同じ時間を、夫目線、妻目線のそれぞれから描く2つのエピソードだ。今までとは違う日常の中ですれ違いが生じていく、でも、それをお互いがなんとなして切り抜けていこうとする。振り返るとすべてのエピソードはその繰り返しである。冒頭の祖父が営んでいた昔ながらの小さな食堂を引き継いだ女性の話や、ウーバーイーツの配達をする女の子とその父親を描くエピソードそうだ。
全体のバランスもよく考えられていて、215分の長編映画の体を成してもいる。8つのお話はこの同じ町で暮らしているたくさんの人々の姿を象徴する。コロナ禍のこの世界で、ひっそりと息をひそめるようにして暮らしている彼らは、もちろん我々の姿と重なる。中川監督は相変わらず銭湯が好きで今回も銭湯に行くシーンを用意していて、笑ってしまった。失われていくものへの慰謝。それはコロナ禍を描くこの作品でも変わらない。
ストーリーを極力排して点描のようなささやかさでつなぐ。ただ、ラストの川原での合唱シーンはその祈りのような歌声とともに、この作品の中でどうしても描きたかった全てを声高に叫ぶ。世界がどう変わろうとも我々はここで生きている。