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映画・演劇のレビュー

乾ルカ『モノクローム』

2014-08-15 18:12:48 | その他
 囲碁をテーマにした小説というので、ちょっとどうかなぁ、と思ったけど、(だって、囲碁なんか知らないし)読んでみると、決してそういうわけではなく、孤児の少年を主人公にした青春小説だった。(というか、青春小説って何!)彼が何を感じ、何を思い生きたのかを描く方が、中心になる。でも、核心部分にはちゃんと囲碁が描かれるから囲碁小説というのは嘘ではない。

 5歳のとき、母親に棄てられて児童養護施設で育った。高校を卒業して独立した。信金で働きながら、夜学の大学に通う。ずっとひとりだった。他人に対して心を閉ざした。高校の頃、ひとりだけ、友だちが出来た。しつこく付き纏われただけなのだが、そいつは彼のことを見下す(あるいは、蔑む、または、可哀想と憐れむ)こともなく、自然に付き合った唯一の男だ。(こいつが実にいい奴!)

 読みながら本当に面倒くさい男だな、と思った。もちろん、この被害妄想の主人公のことだ。母親に棄てられたわけに拘り続ける。そこから離れられない。母親は自分を棄てて囲碁を取った。なぜ、そうしたのか。知りたい。けど、怖い。

 お話は彼が棄てられた5歳からスタートするのだが、独立する18歳までをすっ飛ばして、施設から就職して、独身寮に入ったところからの2年弱が描かれる。面倒くさいこんな男と付き合う女の子の話が、前半で描かれる。彼女は職場の先輩で何かと彼の世話を焼く。少しは彼女の気持ちに応えるのだが、人に対して上手く関係を作れない。やがて、自分から彼女を突き放すことになる。なんだか、残酷だ。なんかこいつ自分に酔っているんじゃないか、と思う。母親に棄てられたことをずっと根に持って人とうまく付き合えない。なんか甘えてるだけにしか見えない。

 だから、やがては恋人だけでなく、唯一の友人すら失いそうになる。そんなこんなで、最後にはようやく避けてきた母親と向き合う。といっても直接ではなく、彼女の囲碁を通してである。彼女が彼を棄てるきっかけとなった対局の棋譜を通して、あの時の彼女の内面を察していく部分がクライマックスとなる。

 つまらない小説ではないけど、少し面倒くさい小説だった。でも、それってこの主人公のせいだし。モノクロームというタイトルはもちろん囲碁のことで、でも、それが彼の生き方にまで昇華されていないところがこの小説の限界。

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