昨年の4月に上演されるはずだった。何度となく延期され、今年の5月、3度目の延期後、5月15日に無観客での上演をビデオに収録して、ネット配信で公開することになった。僕は届いたDVDによる鑑賞だったが、本番さながらの緊張感で見ることにした。劇場にいるように見たい。本来の形に近い鑑賞をすることが作り手の苦労に報いることになるのではないかと思った。ちゃんと劇場で上演したかったはずだ。そんなことは当たり前。コロナ禍で、稽古を重ね、なんとしても上演しようと試み、でも、それが叶わないなら、無観客でも本番を演じる。そんな作り手の覚悟に観客である僕たちも応えたいから。
全員マスク着用の役者たちは、白い大きなマスクで顔を覆い、演じる。全体的にわざとらしい芝居で笑える。シニアの役者たちが若い女たち(男たちも)を演じる。お話自体もわざとらしいのでこの大袈裟さはこの芝居にぴったりくる。顔が隠れるから、みんな若く見えるのもいい。
一目惚れで一直線に突き進む男と女のお話。お互いの家がライバル関係にある旅館とホテル。でも、ふたりは出会った瞬間、恋に落ちて、出会ったその日にプロポーズ、翌日結婚へというスピード展開。もちろん、周囲の反対をものともせずに。そんなバカバカしいおままごとのような話をノリだけででっち上げる。深夜の神社でふたりだけ(野次馬3人がいるが)で結婚式をあげるとか、ありえない。でも、そこがとても楽しい芝居だ。さらには、演じている人たちがちゃんとこのお話を楽しんでいるのもいい。
ただ、難を言えば、もっとテンポが欲しい。このバカバカしいコメディをよりよく描くためにはジェットコースターのように見せたほうがいい。休憩なしで100分くらいにしたほうが見やすい。だけど、さすがに年配の役者たちにはそれは酷だろう。途中休憩もはさんで2時間越えの長丁場である。(さすがにDVDでは休憩の10分は収録が省略されている)
お話は『ロミオとジュリエット』のパロディで、温泉町を舞台にしたドタバタコメディ。「トミオとユリエと」というアホなネーミングも最高だ。大事なところで、台詞がどんどん抜けてしまい、プロンプの助けを受けたり、靴を履いたまま部屋に入るとか、えっ!と思う場面を含めて素敵だ。あぁ、これが芝居だ、と思う。演じること、それを目の前で見つめること。失敗も含めてそこに生じる緊張感が芝居を生む。そんなあたりまえのことを、改めて感じる。