まさかの30億越えの大ヒットである。アニメではない実写映画で、こんな地味な映画にこんなにもたくさんの客が来るなんて夢にも思わなかった。しかも今も確実に動員記録を伸ばしている。僕が見た今日もよく人が入っていたし、大きな劇場で公開中。しかも若い女の子ばかり。僕の前にはなんと小学生の3人組が、子どもだけで来ていた。公開からもうひと月以上になるけど、大ヒットは続く。
僕が今日これを見たのは、たまたまじゃない。昨日同じ原作者の昨年公開した映画『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく。』を見て驚いたからだ。あれは大胆だった。この映画の原作がどうなっているのかも気になって、たまたま公開中のこの映画も見てみたいと思った。
これは一応戦争を描く映画だ。普通なら若者は見ないタイプの映画である。戦争映画の動員は老人が中心になっているのが定番だけど、これはそうじゃない。少女マンガと同じ客層が押し寄せているみたいだ。戦争を描きながらも甘い描き方をしているから、リアルじゃないという批判も聞く。だが、これはリアルな戦争を描く映画ではない。2023年を生きるリアルな女の子の心情を描く映画なのだ。描かれるのは彼女の知っている戦時中でいい。
これで今朝から読んでいる小説も含めて3作品目となる汐見夏衛作品。この映画の原作小説が彼女のデビュー作になるらしい。後日小説も読むつもりだが、今日はまず映画を見る。やはり思ったようにストーリーが展開する。彼女の小説は明らかによくあるパターンには収まらないように作られているのだろう。
現代の女子高生が1945年にタイムスリップして過ごす3週間の物語。戦時中の日本。特攻隊に所属する彼と出会う。彼はもしかしたら数日後には飛び立つだろう。そして戻ってこない。そんなふたりのほんのひとときの出会いと別れが描かれる。定番なら自分が未来から来たことを語るシーンが描かれるはずなのに、それがない。彼は彼女が何者なのかを知らないまま死んでいく。この展開はあり得ないはずなのに汐見作品ではある当然あり。特異な設定の中で、それをリアルに受け入れて話を進めていくのが彼女のやり方でそこに惹かれる。
主人公の百合は現実を素直に受け入れる。あり得ないことが起きてもそこに適応する。終戦まで2ヶ月。警官に日本は負けると言ったことで「非国民め」と殴られる。当然のことだ。それどころか、あれだけでよく収まったものだ。彼女が見たもの、体験した現実、それが描かれる。特攻隊の男たちの描写も甘いけど、それは彼女の目から見えた部分だけだからかもしれない。過酷な現実はあまり描かれないけど、死は確実に迫ってくる。そして彼らは死ぬために飛び立っていく。
あれはすべて夢だった、と思ってもいい。だけど、あれはすべて現実だったことだと知った時、彼女は目の前の今と向き合い、彼が願っていた教師を目指す。これはまず10代あるいは20代の同世代の女性にアピールする映画なのだ。よくある戦争映画ではなく、たわいないSF映画でもない。ささやかな青春映画に仕上がっているのが素晴らしい。