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映画・演劇のレビュー

よしもとばなな『まぼろしハワイ』

2007-12-02 22:02:43 | その他
 よしもとばななは、相変わらず語彙の少ない作家で、この『まぼろしハワイ』もまた、うれしいとか、かなしいとか、そんなことがそのままに書かれている。

 父が死んで哀しいからと、ずっと泣いてばかりである。そんな娘オハナちゃんと義理の母(父の後妻ね)あざみさんの姿が描かれる。悲しいから、ハワイに行って、そこであざみさんの育ての親であるマサコさんや、あざみさんの初恋の人であるおじいさん(山本さん)と会う。そして、心癒されていく。ただそれだけの話である。こんなにも中身のない小説はめずらしい。あまりのあっけなさに笑ってしまう。でもそういうところが、よしもとばなならしい。

 2本目の『姉さんと僕』は生まれた時から、両親がいないので、10歳しか離れていない姉と二人で暮らしてきた男の話。もちろん生まれたときから彼が10歳になるまでは、さすがに叔母さんが同居してくれていて、彼女が母親代わりだったが、その後は二人で生きてきた。姉は成人したときから、ずっと僕が成人するまで自分の人生を犠牲にして僕を育ててくれたのだ。叔母さんの結婚式のため、姉とハワイに行く。

 自分を育てるためだけに生きてきたような姉と叔母。2人が幸せになってくれることを望みながらも、幸せなんてものに対して、生まれた時から信じられないでいる。でも、人は静かに生きていく。この瞬間はやがて過ぎ去り過去のものになる。だから、やり過ごしていけばいいのだ。何も考えずに。

 この小説はそんなことを教えてくれる。それって寂しいことではない。人はそんなふうにして生きてきたし、これからも生きていく、という淡々とした事実なのだから。この単純な小説を読みながら、その単純さに、なぜか納得していた。さすが、よしもとばななだ。

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