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映画・演劇のレビュー

万博設計『砂利はポルカを踊る』

2020-12-07 18:29:11 | 演劇

いつもの橋本さんの世界とは異質な作品に仕上がったのは、台本の力であろう。イトウワカナさんの書き下ろし台本はミステリアスな展開なのだが、ストーリーラインが明確でそこには何の不思議もない。だけど、この雨の夜に、何処とも知れぬとある地方の町からさらに山の方に向かっていく最終バスというだけで、なんだか不思議な気分にさせられる。これはそこに乗り合わせた4人のお話。彼らが何者なのか、なぜここにいるのかという、お話なら気になるようなことは一切気にしないで、ただ、定点観測でこのバスの中の風景を見つめる。物語は確かに動き出す。15年間、行方知らずだったお姉ちゃんがそこにいるからだ。

 

バスの車内である。椅子と段差による車内は、アクリル板によって遮られている。その舞台空間は、リアルと象徴の間で不思議な感触を残す。人と人との狭間はその透明な板によって遮られる。だけど、それは本来なら見えないものだ。

 

そこで繰り広げられる姉と妹とのドラマが、周囲の人を巻き込んで(と言っても、運転手と妹の夫、そしてもうひとり、謎の男の3人だけだけど)描かれていく。たまたま乗り合わせた乗客がこんなことになるなんて普通ない。この偶然の出来事をさりげないタッチで描く。姉の帰省の理由や、妹夫婦の対応。そして謎の男が、このバスに乗り合わせた理由も含めて、お話は実に明快だ。でも、そのお話には深い意味はない気がする。

 

雨、夜、地方の路線バス、最終便、という設定だけで、それはいつものありふれた光景のはずなのに、なんだか寂しげで、心に沁みてくる風景を描き出す。何の変哲もない現実の風景であるはずのバスの車内。普通なら誰も喋らない。自分が降りるバス停まで静かに窓の外の暗闇を見つめているだけだろう。本来ならそれでいいし、そうなっていたはずだ。だから、ここに起きたこのとんでもないお話には,現実味はない。なんだか夢の中の出来事のようだ。

 

そうなのだ。これは現実ではない。リアルな夢のようで、夜のバスに揺られながら窓の外の風景を見ながら(でも、外はもう真っ暗で、たぶんそこには自分の顔しか写っていないけど)見た夢。そんな気分にさせられる。登山口に向かうバスは、行く先を失った人たちを新しい旅立ちに誘う。15年間ここから離れて,戻ってきたはずなのに、もう帰る場所はないということを改めて教えられる。死に場所を探してここにやってきたのかもしれない男は、もちろん死ぬ気はない。これはきっとバスに揺られながらほんの一瞬見た夢だ。そんな不思議な気分がここちよい。

 

 


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