湯浅政明監督の最新作。3時間の大作だ。小松左京の小説を原案にしたオリジナルである。原作からの流用は日本が沈むというところだけ。小説の主人公である田所博士と小野寺は一応は登場するけど、主人公はある家族。彼ら4人のサバイバルが描かれる。ピンポイントで、日本沈没の風景が描かれる。全体像は一切見えないまま。何が起こったかもわからないし、どうしたらいいのかもわからない。政府の対応とか、世の中の動向とか、まるで見えないまま。そんなのはネットでわかるかもしれないけど、ネットの情報も信憑性はない。政府からの報告も的を射ない。ただ目の前の事態と向き合うだけ。彼らの出会う人たちとの交流から、お話は進展していく。たまたま彼らが主人公になっただけ。誰でもよかった。このとんでもない事態に直面した人たちのそれぞれのドラマが、そのひとつひとつが「日本沈没」という映画になる。一応はそれくらいのスタンスで作られてある。(まぁ、それだけではないけど)いきなり人が死ぬ。主人公は死なないという普通のドラマの鉄則は踏まない。順番にどんどん死ぬ。でも、映画は悲惨にはならない。それでもそこには希望がある。
劇場用映画ではなく、Netflixによるオリジナルアニメである。お話は、1話が25分ほどの短編で10話からなる。だけど、短編連作ではなく(2話からはクレジットを除いて見た)長編作品のスタイルだ。だから連続して見ると3時間ほどの作品になるということだ。
ここに描かれるのは小さなお話で、ある家族がこの緊急事態と向き合う姿が綴られる。彼ら家族がこのとんでもない現実とどう向き合い、生き残るためにどう戦ったのかが描かれる。宗教団体の施設の入るところから、だんだんお話はそれなりにドラマチックになるけど、荒唐無稽にはならない。そして、派手なドラマにはしない。それなのに最後まで飽きささない。ただただ彼らのサバイバルを追いかけるのだ。そこから目を離さない。何が待ち受けているかなんかわからないし、どうすればいいのかもわからない。それでも生きるしかない。
ラストの希望は、どんなことがあろうとも生きるんだという覚悟を象徴する。2020年に日本が沈んでしまった。そんなバカなことがあるはずない、と信じたかったけど、その事実は変えられない。生き残った僕らはそこからどう生き抜くか、それがテーマだ。
このどうしようもない現実の中で生きていく彼らの戦いを描く。アニメだから描ける世界が展開する。それは阿鼻叫喚の地獄絵図をリアルに見せることではなく、アニメだから可能な優しさ。これは感動的なヒューマンドキュメンタリーなのである。こんな題材なのに湯浅監督らしい作品に仕上がった。ただのパニック映画ではない。