イランの巨匠ジャファル・パナヒ監督の長男パナー・パナヒの長編監督デビュー作。父親の意思を受け継いで果敢にイランの現実と向き合って、ひとつのあり方を提示するが、それは熱いばかりのメッセージに終わるわけではなく、ましてや政治プロパガンダではない。
明るく元気すぎる無邪気な弟の姿に象徴する前向きな姿勢と、確実な困難を受け止めて、国外脱出に不安を抱えたままで挑む兄の後ろ向きな姿勢が対比される。何度となく車を降りて、進行を遅らせたい、というためらいを見せる。
何も知らないまま元気に家族旅行を楽しむ幼い弟。兄と別れ別れになることも知らされていない。フィックスで無言の長回しが何度となくある。これが見納め。
祖国の大地を家族を乗せて車で走り抜ける旅。陽気すぎる弟はいささかうざったい。だけど元気は子どもの特権。映画は必要以下の情報しか提示できない。93分の短い映画は寡黙をラストまで貫く。